第143話 魔力0の大賢者、緊迫のマゼルの町
sideマレツ
アラクネを倒した後、ダンゼツ様と俺は脚を速め、そしてマゼルの町とやらまで到着した。目の前では門番が立っていた。この連中からは動揺が見られたが。
「ここがマゼルの町か」
「は、はいそうです」
「そうか、はは。ところで、何かあったのか? 少し顔が青いぞ?」
俺が尋ねる。ダンゼツ様はすぐ後ろで瞑目していた。門番の2人は俺の問いかけに顔を見合わせ。
「じ、実は今さっき町のものが大怪我をして運び込まれまして。理由はわかりませんが、何か恐ろしい魔物にやられた可能性もあります」
「おふた方は旅人、いえその格好からみるに教会関係者でしょうか? もしそうなら治療をお願い出来ると嬉しいのですが」
門番の一人が俺にそんなことを聞いてきた。はは、教会関係者か。確かに間違いないな。
「いいぞ。その連中は我らが止めを刺しそこねた奴らだしな。俺たちが治療してやろう。死という最高の治療をな」
「な! 何だって?」
「お前ら一体――」
門番が全てを言い切る前に俺の剣が門番の2人を切り裂いた。絶叫を上げ塵のように飛んでいく。軽くしかも弱い。くだらない連中だな。
「ダンゼツ様。あいつらまだ息があるようですし、殺しておきますか?」
「ふん、放っておけ。あんな塵、殺す価値もない」
「はは、確かに」
「行くぞ――」
そして俺はダンゼツ様に付き従い大賢者が暮らすというマゼルの町に足を踏み入れた。
◇◆◇
sideマダナイ
今日は私は久しぶりに町でのんびりしている。と、言ったところで当然騎士団の指導官として仕事している間に領地で何があったかは把握する必要があるが。
うちには私がいない間もしっかり領地を見てくれる執事がいる。基本的には私が方針を決めて相談し任せてはいるが、執事はあくまで補佐であり丸投げというわけには当然いかない。
だからこそ私がいない間に執事が纏めておいてくれた資料にはこういった時間が出来た時に目を通して置く必要がある。そのため、言うほどのんびりも出来ないが、しかし妻や生まれて間もない次男のこともある。
仕事ばかりにかまけてはいられない。私は領地も大事だが家族も大事だ。つまり仕事もしっかり早くに終わらせ家族との時間も大事にするということだ。
そんなわけで私は資料に目を通していたが、スメナイ山地の開拓状況について知りたいことが出来た。
うむ、折角だから久しぶりに冒険者ギルドに顔を出してみるか。あのあたりのことは基本冒険者が主体で動いているからな。
「マイムよ、ちょっと冒険者ギルドまで行ってくる」
「はい貴方。ライル、パパがお出かけするって」
「ダ~ダ~」
ライルが手に持った木の剣を振りながら私を見送ってくれた。行ってらっしゃいと言われているようで心が暖かくなる。
「出来るだけ早く仕事を終わらせるからな!」
私は妻と息子にそう言い残しギルドへ向かった。
家からギルドまではそこまで時間が掛からなかった。大賢者たる息子に触発され私も日々鍛錬を続けているがその為か脚も随分と鍛えられた。
おかげでギルドまでの距離も随分と近く感じられる。
「ローラン卿! これはようこそおいでくださいました」
ギルドに入ると受付嬢が私に気が付き出迎えてくれた。冒険者たちも挨拶してくれている。
「大賢者様にはいつもお世話になってます」
「いやいや、息子は息子で色々とギルドの助けも受けているようだしな」
そんな他愛もない話をしつつ、私は用件を切り出した。
「実は開拓の件で確認したいことがあってね。マスターのドドリゲス殿はおられるかな?」
「マスターですか……実はその、本日は朝から破角の牝牛と一緒に依頼で森に向かってまして」
ほう、マスター自ら依頼に出向くとは。もしかしてかなり大きな仕事なのだろうか?
だが受付嬢はそんな私の考えに気がついたのか苦笑いし。
「実は依頼そのものは大して難しいものではないのです。名目では冒険者の仕事ぶりを見ておくためとありますが、実際は現実逃避みたいなもので」
苦笑しながら教えてくれたが、どうやら私が聞こうとした開拓地の業務が相当忙しいらしく書き置きだけ残して抜け出したということらしい。
そうだったのか……やはりギルドマスターともなれば日々の業務も多忙を極めるのだろう。受付嬢はただのサボりですよなんて笑っていたが人生息抜きも大事だ。それが習慣になっているようなら困るがたまには羽根を伸ばすことも大事だろう。
「もうしわけありません折角来ていただいたのに」
「いやいやそういうことなら私も今日はやめておこうかな。まだ時間はあるしギルドマスターにも休みは必要だろう――」
「た、大変だ! ギルドマスターと破角の牝牛の連中がすげー大怪我を負って運ばれてきた! 誰か治療できるやつがいたら早く来てくれ!」
私がそう告げ辞去しようと思ったその時、ギルドのドアが勢いよく開け放たれ弾けるような声が響き渡った。
報告に来たのは恰幅の良い戦士然とした男だった。そしてその顔には緊張の色が滲んでいて緊迫した事態を否応にも感じさせた。
「大怪我だって? 依頼はそう難しいものではなかったのでは?」
「は、はいそのとおりです。向かった森も危険度が低く依頼もただ薬草採取ですから」
私が発した疑問に受付嬢が答えてくれた。しかしだとしたらあまりに妙だ。まさか、森に凶悪な魔物でもでたのだろうか? 変異種が出たという可能性もありえる。今はマゼルも蟲使いの村に行っていて留守にしている。ここは父であり領主でもある私がしっかりせねばいけないだろう。
ギルド内が慌ただしくなり回復魔法が使える者が名乗りを上げた。
「私もいこう事情を聞きたい」
「こ、これは伯爵様! は、はい、ではこちらへ!」
知らせに来た冒険者の案内で私は表に出た。そこには大型の蜘蛛と傷ついた破角牝牛の面々とギルドマスターの姿があった。
蜘蛛は魔物だがこれはアネが使役していた魔物だ。害はなく、話によるとどうやら傷ついた彼らを運んでくれたのはこの蜘蛛たちなようだ。
「ありがとう恩に着る」
「シャー」
「シャー」
「キシャ~」
お礼を述べると蜘蛛達が鳴き声を上げた。どういたしましてといっているようでもある。賢い蜘蛛たちであるな。
しかし、アネの姿がない。それも非常に気になるところだが、とにかく運ばれた彼らを回復している者たちに容態を聞いてみた。
「命に別条はないと思います。ただ傷は深いですね……これ以上のダメージを負っていたら正直危なかったかもしれません」
治療中の女性がそう答えてくれた。命に別状がないのは幸いであったが、しかし手練の破角の牝牛に加えギルドマスターのドドリゲスにまでここまでダメージを与えるとはただ事ではない。
「う、うぅ、ローラン卿――」
「あ、駄目です。まだ安静にしていないと!」
「くっ、そ、そんな悠長なことを言っている場合ではないのです」
「ドドリゲス殿、それは一体?」
ギルドマスターはかなり無理をしているようだが、そこまでしてでも私に伝えることがあるらしい。
とても痛々しいが、重要なことであるなら領主として聞き届ける必要があるだろう。
「ま、魔狩教団の司祭と神官を名乗る連中がこの町に向かってきています。奴らの狙いは大賢者マゼル。危ないところをアネさんに助けられましたが、奴らは信じられないほどに強い、どうか警戒を……」
「ドドリゲス! む、むぅ……」
そこまで言って気を失ってしまったようだ。
しかし話を聞くにやはりこの蜘蛛達はアネが使役したようだ。
しかし、まさか魔狩教団とは……王都に現れた時にはマゼルのおかげで事なきを得たが、ヘンリー王子を含めヤカライやレイサが手痛いダメージを受けるほどの相手だったと聞く。
そのような連中がしかも聞くにそれなりに高位の連中がやってきているようだ。アネはマゼルの魔法で従魔となった魔獣だ。そのアネがやられるところなど想像しがたいが、しかしドドリゲス殿がここまで言うとなると――
「た、大変だーーーー!」
その時、一人の少年が私達の側に息せき切って駆け寄ってきた。彼は確か、ネガメくんだったな。
マゼルとは幼い頃から仲良くしてもらっている少年だ。鑑定魔法が使えて魔法学園に入るためにマゼルに魔法を教えて貰っていたのだったな。
しかし、様子がおかしい。かなり緊迫したものを感じる。まさか!
「あぁ領主様! ま、魔狩教団を名乗る連中が町の入口まで、モブマンとラーサやアイラが必死に食い止めようとしてくれてるけど! し、至急応援を!」
「なんだって!」
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