第144話 魔力0の大賢者、の町に魔狩教団あらわる

 今日はお兄様がいません。お兄様はハニーさんと一緒に蟲使いの一族が暮らす村に行っているからです。


 なんでもハニーさんが大事にしている蜂のビロスちゃんが病気に掛かって一大事なんだとか。ビロスちゃんはお兄ちゃんに良く懐いていたし、それならお兄様が顔を出すことで調子も良くなるかもしれないと思いました。


 それにお兄様は回復魔法も完璧ですから、きっとすぐに治してしまうことでしょう。本当はついていきたかったけど……ビロスちゃんはきっとお兄様が単独で行ってあげた方が喜ぶと思うのです。


 だから今回は私は遠慮しておきました。ビロスちゃんはメスですが……相手は蜂ですし、やはり病気を治すのが先決です。


 なので今日はモブマンくんやネガメくん、そしてアイラさんと一緒に魔法の勉強と訓練を行いました。


 お昼も一緒に食べて、それぞれが改善した方がいい点などを話し合います。それにしてもアイラちゃんは元々錬金魔法が凄かったけど、モブマンくんやネガメくんの魔法も凄く上達してきてました。


 これも全てお兄様の教えの賜物ですね。ネガメくんもやたらと感心してました。大賢者はやっぱり凄いって興奮気味でしたし。ただ、それを聞いていた時のお兄様は何故か微妙な顔でした。


 もしかしたらネガメくんが理解した以上の何かが隠されていたのかもしれません。ただ、それを言うと折角ここまで上達したネガメくんが傷つくかもしれないから言わないでおきます。


 そして私達は午後の訓練も始めたのですが――そこで驚きの出来事がありました。あの破角の牝牛の皆さんとギルドマスターのドドリゲス様が怪我をして運び込まれてきたのです。

  

 しかも門まで運んできたのはアネさんが使役している蜘蛛たちでした。私達の心配を他所に蜘蛛達はギルドまで怪我人を運んでいきます。


「……酷い怪我だった」

「う、うん。一体どうしたんだろう?」

「もしかしてとんでもない魔物が現れたんじゃ……」


 私とアイラさんが話していると。ネガメくんが顎に手を添えて自分の考えを口にしました。

 

 魔物――冒険者は常に危険と隣り合わせといいます。なので時には危険な魔物と鉢合わせになることもあるかもしれません。


 ですが、冒険者ギルドのマスターがあそこまで大怪我を負わされるなんてただ事ではありません。


 それこそとんでもない魔物が現れたという予想も納得できないことはないですが……何か、凄く嫌な予感がします。


「その魔物、町までやってきたりしないよな?」

「そんな、今は大賢者もいないのですから、そんな魔物が出たら一体どうしたら……」

「……大賢者マゼルがいない以上、私達でやるしかない」


 モブマンくんとネガメくんが不安そうにしてますが、アイラさんはとても勇敢です。そうです、私達はお兄様の指導で魔法の力も随分と上がっています。アイラさんと私はお兄様と一緒にあのスメナイ山にあるダンジョンだって攻略しました。


 強力な魔物とも戦える力だってあるはずです!


「た、大変だ! も、門番がやられた! 誰か、た、助けを!」


 その時です、門の方から1人の男性が緊迫した様子でこっちに向かってきました。

 

 これは、魔物がやってきたのかもしれません!


「……行く」

「はい!」

「俺たちも行くぞ!」

「う、うん!」

「え? ちょ、ちょっと待て子どもじゃ危ない!」

「大丈夫です。私達は大賢者でありお兄様の弟子ですから!」

「えええぇええええぇえええ!?」


 慌ててた人が驚いていましたが、とにかく私達は門の前に向いました。


 一体どれほどの魔物が、と色々想像をめぐらしたのですが、そこにいたのは魔物なんかじゃありませんでした。人間です、漆黒のローブを来た人と、丈のある少し変わった格好をした男の2人組――その内のローブを来た男が小さな子どもを掴まえてほくそ笑んでました。手には剣、危険な人物なのは確かです!


「風よ狼と化し我が敵を討て――ゲイルウルフ!」


 杖を掲げて魔法を行使すると風が狼に形を変え、子どもに乱暴しようとしている男に襲いかかりました。


 ですが、男は子どもを空中に放り投げると、私が放った魔法を剣で切り裂いてしまいました。


「なんだこの餓鬼共は?」


 男は訝しげに私達を睨みつけてきます。ですがそれより子どもが!


「よっと! 大丈夫か?」

「あ、ありがとうお兄ちゃん!」


 ですが、モブマンくんが加速して近づき落ちてきた子どもをキャッチしてくれました。そのまま優しく地面に置いてあげて、逃してくれました。

 

 助かった、と安心してもいられません。謎の2人組が目の前にいるのですから。


「……ギルドマスターや冒険者をやったのはお前ら?」


 アイラが2人に問い詰めます。何か怒気のこもった声でした。


「うん? あぁ門番も言っていた連中か。滓みたいな連中だったが町まで戻れたのか。で、どうよ? もう死んだか?」

「……我は錬金の使い、土は鉄にかわり不純あるものを吐き出し、鋼の拳となり抗う敵を撃つ――メタルナックル!」


 早速アイラさんの錬金魔法です! それにしても、かなり怒っているようです。冒険者たちとは知らない仲ではありません。


 だからこそ、今の発言が許せなかったのでしょう。


「なんだこんなもの」

「――ッ!?」


 ですが、あの男はまた魔法を切ってしまいました。これで2度目、こうなるともう偶然では済まされません。


「ネガメ、あいつらの魔法はわかるか!」

「だ、だめです! 僕の眼鏡越しにも何も見えません!」

 

 ネガメくんがモブマンくんに答えました。お兄様から教わり強化された魔法の鑑定でも、視えない相手ですか……。


「アイラさん。もしかしてこれって……」

「……ん、前にマゼルが言っていた魔狩教団だと思う」

「マゼルから我らのことを聞いただと? 貴様らマゼルと知り合いなのか?」


 その時、後ろで静観を決めていた男が反応して問いかけてきました。まさか、お兄様に用があるのですか?


「おい餓鬼、その大賢者のことを知っているなら居場所を教えろ。そしたら見逃してやってもいいぞ」

「……お前らに見逃される謂れはない」

「お、お兄様に一体何のようなんですか?」

「うん? お兄様だと?」

「大賢者には妹がいるという話だったな。そうかお前がその妹か」


 私がお兄様の妹だと知り、良く喋る方の男が好戦的な笑みをこぼしました。


「ということは、妹も含めて全員大賢者と縁がある連中ということか」

「それで、今大賢者はどこにいる?」

「こ、答えるわけがありません!」


 どう考えてもただのお客さんという感じではありません。それにそもそも今はお兄様は町にいないのです。


「ふん、答えないならまぁいいさ。ダンゼツ様、こいつら俺が殺っちゃっていいですかね?」

「……いいだろう。見せしめだ派手に殺ってやれ」

「はは、許可が出たぜ。なら魔狩教団第5位マジックスレイヤーのマレツがお前らの首でも刈ってやるとするか」

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