第115話 魔力0の大賢者、メイドを怪しむ
いよいよ王都から出立の時だね。今回は結構バタバタしてしまったから王都の方を見て回る時間がなくてラーサはちょっと残念そうだね。
「で、でも今回は皆一緒だし、次はお兄様と二人きりで……」
でも、今度は何か口にしながら体をうねうねさせたよ。何かな? やっぱりもうちょっと見ていたかったとかだろうか。
「……マゼル、今度は2人で来たい」
「え? 王都に? う~ん、そんなに簡単に来れるような場所じゃないけど、機会があったらまた来てみたいかもねぇ~」
「な! お、お兄様そんな酷いです!」
「え? え~と……」
何故かラーサが怒っちゃった。え~何か怒らせること言ったかなぁ?
「あ、ラーサも何か見たいのがあったのかな? 勿論それならラーサも一緒にね」
「!? は、はい! 勿論一緒です!」
「……むぅ~」
良かったラーサが喜んでくれた。でも今度はアイラがちょっと不機嫌な気が、う~ん、なんでだろう? 転生してもやっぱり女の子の気持ちを知るのは難しいよ。
「大賢者マゼル――」
僕たちがそんなことを話していると、なんと王妃様がやってきて僕に声を掛けてきたよ。見たところ他に護衛もつけてないようだけど……それに顔色もすぐれないような――
「その、不躾ではあるのですがアリエルとヘンリーを見ませんでしたか?」
王妃様の様子を気にしていると、その理由は王妃様自身から語られた。どうやらヘンリーとアリエルが見当たらないらしい。
「僕は見てないですね。ここには来ていないと思うのですが、ラーサとアイラは見かけたかな?」
「いえ、見てないですね」
「……私も、だけど、マゼルにお別れに来ないとは思えない」
アイラが心配そうに口にした。う~ん2人とも王族だから忙しくて見送りにこれないって可能性は十分あるとは思うけど、でもいなくなったというのはおかしい気がするね。
「私もそう思うのです。夫も最初はいつもみたいにアリエルが抜け出しただけとも考えたようで、大賢者マゼルが出発する頃には姿を見せるだろうと思ったようなのですが……」
「それでも、まだお姿が見えないということなのですね」
父様が神妙な顔を見せる。確かに姿が見えないとなると心配だね。
「それに、途中からヘンリーの姿も見えなくなったのです。騎士もカレント、ヤカライ、コマイル、ハイルトンの4名の姿が見えないと聞きますし、何かあったのではと心配で……」
「……途中からということはヘンリー王子は、暫くはいたのですか?」
「はい。城や宮殿の者から話を聞く限りですが――」
う~ん、それだと益々気になるね。もしかしたらヘンリーはアリエルに何かあったことを知って、行方を追ったのかもしれない。
「わかりました。父様――」
「うむ、事情が事情だ。王妃殿下、我々も捜索に協力させてください」
「まぁ、皆様にそう言っていただけると凄く心強いです」
話は決まった。だから僕たちは手分けして2人の行方を追うことになった。王妃様からも許可をもらって、僕は一先ず宮殿に向かう。
「おやおや、どうやら大変なことが起きているようですな」
宮殿に向かう途中、リカルドと遭遇した。どうやらこの男も事情は知っているようだね。
「しかし、私の思ったとおりになったようだな。だからこのような称号を渡すのは早いと私は危惧していたのだけどね」
「早い? 何のこと?」
「ふむ、その様子だと知らないようだな。いい気なものだ。王女様がいないこともそれに関係があるかも知れないというのに」
「……どういうこと?」
「はは……お前が称号を賜ったことを気に入らない連中がいるという話さ。しかし、この状況でお前自ら捜索に協力するとは、本当にいいのかな? もしこれで両殿下に何かあったら、お前の不甲斐なさが露呈することになって名声も地に落ちることに――」
「くだらない……」
「何?」
やっぱり僕はこの男のことはあまり好きになれないかな。でも僕を気に入らない何者かがいるということを知れたのは多少は役立ったけど。
「僕の称号とか名声とか、今はそんなことどうでもいいことじゃないか。そんなことより2人の身の安全を心配するほうが先だよ。貴方もそんなくだらないことを考える暇があったら、少しは協力したら如何ですか?」
「……フンッ、やはり、気に入らんな」
リカルドは吐き捨てるようにそう言い残して去っていた。冷たい目だった。やっぱりあのリカルドは僕に対してどこか悪感情を抱いているところがありそうだ。それが何なのかはわからないけど。
でも、今はそれどころじゃない。早く2人を探さないと。
「あ、メイドさん。あの、ヘンリー王子とアリエル王女を見ませんでしたか?」
僕は宮殿で見かけたメイドさんに声を掛けた。色々気になることがあったからなんだけど。
「それが朝には一度拝見しておりますが、それ以後は全く。城のものも皆心配しているのですが……」
「う~ん、全く見ていないのですか?」
「はい、全く」
「それなら、王女といつも一緒にいるファンファンはどうかな?」
「……それも見ておりません。ファンファンは王女に凄く懐いていて王女から滅多なことでは離れませんから、見つけることが出来たら手がかりになるかも知れないのですけどね」
「そう――わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、ですが大賢者様にご協力いただけるなら心強いですね」
そして僕はメイドさんと別れた。それにしても、やっぱり嘘をついているね。だってあのメイドさんにはファンファンの匂いがしっかり残っていたもの。
僕は普通より鼻が利くからそういうのがわかるんだ。勿論宮殿に勤めているメイドさんだから、匂いがするのはおかしくないし微かにアリエルの匂いも残っていたけど、でもメイドさんから漂ってきた匂いはファンファンの物の方が濃い。
しかもこの匂いの濃さは、ファンファンの近くにわりと直近までいないとつかないものだ。
だけど、今メイドさんが連れているわけではないね。僕はメイドさんが残したファンファンの残り香を頼りに宮殿を進む。
「ここだね……」
部屋にたどり着いた。雰囲気的にあのメイドさんに与えられた部屋なんだと思う。ドアノブを回してみたけど鍵が掛かっているね。
でも間違いなくファンファンはこの中にいる。仕方ないね。ドアノブに手をかけ、僕は氣を操作して鍵を外した。
本当はいけないことだけど、緊急事態だから仕方ないと自分に言い聞かせた。
部屋に入る。明かり取りの窓にはカーテンが掛けられているから中は結構薄暗い。ファンファンの匂いをたどると、引き出しのついた木製の棚の前にたどり着いた。
匂いからすると、下段のこの棚だね。僕は手をかけて、引き出しを開けてみるけど。
「ふわっ!?」
思わず変な声が出た。だ、だって引き出しの中にはその、女性物の、し、下着が詰まっていたから。
しかもなにか凄くエッチな下着も入ってるよ。この中を探すのは流石に躊躇われるけど、し、仕方ない。
匂いはわかっているから下着の中をかき分ける。うわ、これ、殆ど紐じゃないか! こんなの下着としての意味をなしてないんじゃ……。
「チュ~~!」
頬が熱くなるのを感じながら掻き分けていると、ファンファンが飛び出してきて僕の胸に飛び込んできた。やっぱり思った通り、この中に閉じ込められていたんだ。
「チュ~チュ~」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
ファンファンの頭を優しく撫でてあげる。ちょっと震えてるね。よっぽど怖かったのかも知れない。
「あらあら、親御さんからは教わらなかったのかしら? 勝手に淑女の部屋に入るような真似をしてはいけないって。本当、悪い子ね――」
すると僕の背後から女性の声が届く。振り返ると、微笑を浮かべるあのメイドさんの姿があった。
「この部屋には鍵が掛かっていたはずなんだけど、それも大賢者の魔法とやらで開けたのかしら?」
「それはご想像におまかせします。でも勝手に入ってしまったことは申し訳ないですが、これはどういうことですか?」
僕は少し強い口調で問いかけた。勿論助けたファンファンについての質問だったのだけど。
「どういうことって、どうみてもそれは私の下着よね。正直驚いたわ。まさか大賢者様にそんな趣味があったなんて」
「え?」
メイドさんの冷ややかな視線はファンファンではなくて僕の頭の上に向けられていた。まさか、と思って手をやったら紐のような下着が頭の上に――ち、違うそうじゃないから!
「こ、これは不可抗力で!」
「チュ~……」
ファンファンにまで何か残念な物を見るような目を向けられたよ! だから違うんだってば!
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