第83話 魔力0の大賢者、皆に聞かせて驚かれる
sideナモナイ
砦の跡地のゴブリンを全て討ち取った後、私たちはそのままゴブリンの本拠地と思われる場所に向かった。
ハニーが乗ってきた蜂たちは優秀で、特にピンク色のビロスという蜂は大賢者マゼルたる息子のフェロモンを覚えていたようで、それを辿ることでゴブリンの本拠地が判ったのだ。
それにしても、蜂さえも魅了するフェロモンを発するとは、流石大賢者マゼルであるな! だが、これは将来が楽しみでもあり、少し心配でもあるが。
女性関係で苦労するようなことがなければいいのだが、いや、きっと息子なら、そう大賢者マゼルならその程度の問題どうとでもなることだろう。
と、そうこうしている間にどうやら近づいてきたようだ。ビロスが羽音を立ててダンスを踊りながら知らせてくれている。
「あの岩山が敵の本拠地のようです!」
「……あそこにマゼルが」
「待っててくださいお兄様! 今私がいきますよ!」
「ビー! ビー!」
ハニーが指で示してくれた先には高く聳え立つ岩山があった。あそこが本拠地とは、あれはまるで天然の要塞だな。よく見るとところどころに外に突き出た足場も見えるし投石機や弩、その前に控えるゴブリンの姿もある。もし地上から行っていたらあそこから狙い撃ちされたことだろう。上空からの攻撃は対処が難しい。蜂使いのハニーがいてくれて良かった。
――ズドォオオォオオォオオォオオオン!
その時だった。岩山の恐らく頂上付近から巨大なゴブリンが落下してきて地面を揺らした。凄まじい衝撃音であった。
これは一体何が起きたのか? いや、聞くまでもない。こんな真似が出来るのは我が自慢の息子、大賢者マゼルをおいて他にいないであろう。
「一体何がおきたのでしょうか?」
「……そんなこと決まってる」
「はい! またお兄様が偉業を成し遂げたのですね!」
「お、おいおいマジかよ……」
「ちょっとした城ぐらい大きなゴブリンをいくら大賢者とは言え、子どもだよな?」
「フッ、それはお前たちがまだ大賢者をよく知らないからだ。一度でも見てれば、ま、そりゃそうだよなという気持ちになれる」
「むしろただデカいだけなら超魔法で瞬殺よね」
後ろの方からそんなささやき声が聞こえてくる。どうやらナムライの冒険者の中にも大賢者マゼルをよく知るものが増えてきているようだ。
勿論まだ良くわかっていないものもいたようだが、それも今ので判ったことだろう。
それにしても、さすがであるな。他のものが気づいているかはわからぬが、息子はあのゴブリンジャイアントをただ倒したわけではない。
倒した上でそれを利用し途中の足場ごと破壊してみせたのだ。おかげであそこから狙われることはもうない。それにだ。
「ローラン様、このまま上を目指しますか?」
「いや、そっちは息子に任せておけば大丈夫だ。むしろ今ので魔窟にいるゴブリンが逃走を始めている。アレを見逃しては近隣の村や畑に被害が出る可能性がある。それだけは避けねばなるまい!」
「わかりました! ではこのまま地上に近づき、残りのゴブリンを倒しましょう」
「うむ、他の者も協力して頂けるか?」
「「「「「「「「「「勿論!」」」」」」」」」」
一緒に来てくれたナムライ領の兵や冒険者もやる気十分であるな。自分たちの暮らす領のこととあり全員必死なのである。
なので私たちは一斉に魔窟から出てきたゴブリンどもを討ちに向かった。1体たりとものがしてなるものか。
ゴブリンの追討を始めると、奴らも反撃に打って出てくる。それにより多少は粘りも見せるが我々の敵ではなかった。
その上、途中から明らかにゴブリンの動きに変化が現れた。これまではそれなりの知性が感じられる動きを見せていたゴブリンが、突如獣のようなでたらめものに変化したのだ。
それで私は察することが出来た。大賢者マゼルが魔窟のボスを倒したのだと。ゴブリンに統率力が生まれたのも魔窟によってゴブリンを統括出来るものが現れたからだ。
しかしそれを失えばゴブリンなど悪賢いことだけが取り柄の魔物でしかない。
それから全てのゴブリンを駆除するのに大した時間は掛からなかった。
「ふぅ、これで全てのゴブリンを倒したか」
額を拭いホッと一息ついたその時、上空から人影が降ってきて軽やかに大地に降り立った。
その姿に、やはり親として安堵し、同時に自然と笑みがこぼれた。
「やったのだな。大賢者マゼルよ」
「あれ? 父様、それに皆も来てくれたんだ~あ! ハニーまで!」
「はい! 来ちゃいました大賢者マゼル様! 蜂たちも一緒ですよ」
「ビービー♪」
「あ、ビロス、久しぶりだね~アハッ、くすぐったいよ~」
それにしても、蜂と戯れる姿を見ると年相応の子どもにも見えてしまうな。そんな姿がなんとなく微笑ましくも思えたりするのだが――
◇◆◇
sideマゼル
ゴブリンのボスを倒して、魔核も破壊した後は、念の為辺りを探してみたけど、これといったものはなかった。
結局のところ魔窟だしね。ダンジョンと違って魔窟はお宝とかでてくることもないし。魔核を壊すのが一番の目的だし。
だから、僕はゴブリンジャイアントがいた辺りまで戻って、そこから飛び降りた。
魔窟をそのまま進むよりはそっちの方が早いし、逃げたゴブリンは早く仕留めないと、とそう思ってたんだけど地上についたらいつの間にかやってきていた父様たちに残りのゴブリンも全部倒されていたよ。
何か見知った気配があるなとは思ったけど、もうここまで来ていたなんてね。でもハニーも来ていたことも知って納得がいった。
蜂の力があれば空からこれるし早いよね。ハニーが来たのは僕たちに会いに来たからだったようだけど、皆にとってはタイミングが良かったようだよ。
ピンク色のビロスも来ていて、近づいてきてすり寄ってきたよ。首周りにフサフサの毛が生えてるからくすぐったいけど気持ちよかったりもするんだよね。
折角だから撫でてあげたらすごく喜んでくれたよ。可愛いよね。
「お兄様であればゴブリンに遅れを取ることはないと信じてましたが、無事で良かったです」
「流石マゼル。たった一人でゴブリンのボスも倒した」
「うん、ラーサとアイラも協力してくれたんだね。ありがとう」
2人にお礼を言うと頬を染めてもじもじしだしたよ。あれ? もしかしてお花を摘む的なあれかな?
「我慢は良くないと思うよ?」
「「?」」
2人が不思議顔だね。あれ? 違うのかな?
「大賢者マゼルよ。よくやってくれた。これでまた伝説が一つ増えたな!」
すると父様が近づいてきて、すごく喜んでくれているのがわかったのだけど、相変わらず少し大げさに思えるよ。
「いえ、そんな伝説という程でもないので……それに父様や皆さんの協力もあってこそです。おかげでゴブリンもこんなに早く殲滅できましたから。そうでなければこれから散り散りになったゴブリンを追いかけて倒さないといけないところでしたし」
「……え~と、それは一旦戻ってからということですかい?」
「え? いや、僕が追いかけ回さないといけなかったかなって……」
冒険者の質問に答えた。それは結構手間になるからね。他の領地であまり派手に暴れるわけにもいかないし。
「やっぱり大賢者様は大賢者様だな……」
うん? 何かおかしなことを言ったかな?
「ところで上にいたのはやはりゴブリンキングであったのかな?」
「え? あぁそういえば、あまり気にせず倒しちゃったけど、ゴーブラという人語をしゃべるゴブリンがいて」
「「「「「「人語をしゃべるゴブリン!」」」」
「何か爆裂魔法を使ってくる変わったゴブリンではあったんだけど」
「「「「ゴブリンが爆裂魔法!」」」」
「あ、でもそんなに驚くほどじゃなかったんだよ。何かやたらうるさくて煙いかなぐらいだったし」
「……マゼル、ここで戦ってる時、上から何度も爆発音がした。もしかしてあれ?」
「あぁ、そういえばすごい音がして煙がモクモク上がってたっけか……」
「岩山が揺れて地面も揺れてたけど、天災じゃなかったのね……」
「うん、そうそう。それだね。なんか連続で爆発してきたんだけど、おかげで服がちょっと焦げちゃったんだよね」
「「「「「「「「服が焦げただけ!?」」」」」」」」
なんだろう? 何か凄い驚かれてるような、魔法使いのお姉さんやお兄さんまで目を丸くさせてるけど、本当に大したことなかったからね?
「それでね、そのゴーブラがボスのこと帝王って呼んでたんだ。だから今思えばあれ、ゴブリンシーザーだと思うんだよね」
「「「「「「「…………」」」」」」」」
あれ? 何か名前出した途端、皆黙ってしまったよ? どうしたのかな?
「その、なんだ。私の勉強不足かもしれないが大賢者マゼルよ。ゴブリンキングではないのか?」
「え? 違うよ父様。ゴブリンシーザーはゴブリンキングの上だよ。だから途中で何体かゴブリンキングとも遭遇したんだよね。シーザーはゴブリンキングも従えるから」
「ゴブリンキングを、従える?」
「なんだそれ、ゴブリンとかオークってキングが一番上じゃないのかよ……」
「そもそもキングでも本来、かなりヤバい相手よね」
「あぁ、かなり麻痺しているけど魔窟にキングときたら本来なら軍が出てくる話だからな」
「いや、でもほら所詮はゴブリンだし、シーザーもキングの10倍程度の力だからそこまで驚くことじゃないよ」
「「「「「「いやいや十分驚くことだよ!」」」」」」
え? そうなんだ? 個人的にはシーザーよりしゃべるゴブリンがいた事のほうがビックリだったんだけどね。
「お兄様凄いです。そんな未知数の敵をたった一人で……」
いやラーサ。だから未知数ではないんだけど……転生前からいたし。あれ、でも今って知られてないの? この辺にたまたま出なかったとかかな?
「……マゼル、きっとまた伝説級の魔法使ったと予想。見れなくて残念」
うん、ごめんね。本当、一切魔法なんて使ってないんだ。物理だからね。
その後も僕の話にやたら驚かれて参ったけどとにかくゴブリンの駆除は完了したから早く皆を安心させるために帰路についた。
ビロスが乗って乗ってとアピールしてたけど、人数ピッタリだから難しいよね、と思ったら他よりも大きいビバイトに2人乗ることになったからせっかくなので帰りは皆と蜂に乗って帰ったよ。何かビロスがすごく喜んでたな~。
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