魔力0で最強の大賢者～それは魔法ではない、物理だ！～

第66話 魔力0の大賢者、連戦する

「え～いいと思うんだけどな～スペルマフィスト」

「いや、何かちょっと短くなってません？」

「これでも駄目？」

「却下です」

　口をとがらせて、不満そうにしているレイサさん。あれ？　何か急に距離が近くなってきた気がするぞ。

「何を、楽しそうにハッピーに！　話しているのだバカモンが！　ファック！」

　すると、何かあの独特の口調な怒鳴り声が聞こえてきた。確かレイサさんの魔法剣で吹っ飛んだ筈だけど立ち直ったんだね……。

「何だ、もう起きたの？」

「とっくに起きてウェイクアップしてたわ！　それよりも貴様なんだその体たらくアブジェクト！　しかも貴様そんなガキにチャイルドに負けておいて何をヘラヘラしてる！」

　ヤカライが血管をピクピクさせて怒鳴り散らした。口調も何か荒くなってるね。それにしてもヒステリックだね。カルシウム足りないのかな？

「ふぅ、別にこの勝負は勝つことだけが目的だったわけじゃないし。噂の、大賢者の名を引き継いたという二代目様の実力を確認するのが目的よ。そして彼はその力を示した。だから私は負けを認めたのよ」

　に、二代目……世間ではいつの間にかそんな話になってたんだ。一応普通に初代なんだけどね。そもそも大賢者と呼ばれることが身に余る話なんだけど。

「ふん。日和ったか馬鹿が！　もういい！　貴様ユーはさっさとどけ！　ハリアップ！　あとはこの私ミーがやる！」

　なんかヤカライが出てきて、腕を強く振りながら追い出すように大声を上げてるよ。やるって、もしかしてこの人とも試合やらないと駄目なのかなぁ？

「決着はもうついたわよ。お前が出ることはないでしょ？」

「ふざけるな！　シャラップ！　あんなもの何の参考にもならん！　再戦リトライだ！　宜しいですよね将軍ジェネラル！」

「ふむ……確かに、さっきのは少々レイサに油断があったとも言えなくはない」

「え？　いえ、私は油断なんて」

「黙れ！　シャラップ！　閣下エクセレンシーがこう言っているのだ！　さっさと下がれ！」

「……はぁ、ごめんねマゼルくん。私も一応騎士団所属だから」

「あ、いえ。こうなったら仕方ないですから」

　もう相手も戦う気まんまんみたいだし、結局のところそうしないと納得してくれなさそうだもんね。

「わかりました、ではやりましょう」

「ふん、墓穴を掘ったな馬鹿め！　素直に負けルーズを認めておけばいいものを！」

「えぇ……」

　まだはじめてもいないのにそれはないよね。それにしても随分と自信があるみたいだけど、それだけ腕に自信があるってことなんだろうね。

　ヤカライが使用するのは槍だ。十字型の槍で刃もしっかりあるから突くだけじゃなく切ることも出来そうだね。

「それで、準備アレンジメントは出来たのか？」

「うん、大丈夫」

「ふん、余裕ぶってられるのも今だけだ。言っておくが私は一撃ヒットを入れたほうが勝利ヴィクトリーだなんて甘い内容ルールでやる気はないぞ。どちらかが決定的クリティカルな攻撃ダメージを与えるか負けルーズを認めるまでだ。いくぞプレイ！」

　えぇ、そこで勝手にルール変えちゃんだ……そしてヤカライが踏み込んで突きを連打してきた。上半身を振ってそれを全て避けながら後ろに下がる。

「黒き影、我を援じ、忍び寄る漆黒、伸びよ先鋭――ロングシャドウピアス！」

　うん？　なんだろう、詠唱が終わると同時にまた刺突してきた。距離は離れているけど、あ！

「チッ……」

「え？　今何かしたのですか？」

「うむ、あれは、影か？」

　ヤカライが舌打ちし、ラーサは小首をかしげいた。でも、流石父様は気づいたみたいだね。

　ヤカライは魔法で槍の影を伸ばしたんだ。だから槍そのものは伸びなくても伸びた影による攻撃が迫ってきたわけ。だからその伸びてきた影の槍を避けた。

　あれ、僕の影が狙いだったね。多分影に刺すことで本体にもダメージが行く魔法なんだろうと思う。面白い魔法だね。

　だけど、判ってしまえば避けるのは難しくはない。影にだけ気をつけていればいいからね。

　続けて影を伸ばして来るけど、余裕を持って躱していく。

「馬鹿が！　シャドウバインド！」

「うん？」

　今度は僕の影からロープ状の影が伸びてきて僕を縛ってしまった。こんな事もできるんだ。

「あはは、どうだ！　これぞ影魔法シャドウマジック！　私ミーは影魔法シャドウマジックと槍ランスを組み合わせハイブリッドして戦う事ができる！　魔法剣マジックソードごときで調子に乗ったあの女ビッチとは出来が違うパーフェクトなのだ！　さぁ、これで私ミーの勝ちウィンはきま」

「よっ！」

「～～～～～～～～ッ!?」

　うざったいから影のロープみたいのは引きちぎった。あれ？　なんかヤカライが出目金みたいな目で口をパクパクさせてるよ。

「うむ、流石大賢者マゼルであるな。魔法を引きちぎる魔法とは」

「常識では計り知れない知識と魔法、それこそがお兄様の素晴らしいところです」

　あ、うん。これも物理的に引きちぎったんだけどね。

「馬鹿が！　相手が子どもだからと油断したなヤカライ！　中途半端な魔法を使いおって！」

「え？　いや、私ミーは……」

「閣下、どういうことですか？　閣下はもっと中立な立場で見てると思いましたが、それだとまるでイヤミを応援しているようではありませんか？」

「おい！　変なところで切るな！」

「む、む、いやそういうわけではない。ただ、マゼルの実力を知るためだ。中途半端な真似をされても困る」

　ふ～ん、とレイサさんがジト目を向けているけど、得心はいったかな。流石にあの程度の魔法しか使えないとも思えないし。

「そ、そうだ！　きっと私は自分でも気づかぬうちに加減をしてしまったのだ！　そうに違いない！」

　あれ？　何か口調が普通になった？

「――シャドウテンタクル！」

　今度はヤカライの足下の影が伸びて触手のように変化して襲ってきた。本数は8本か。ウネウネしてて軌道は変幻自在っぽいかな。

　だけどこれも（・・・）避けるのはそう難しくないかな。そう思っていた矢先、ヤカライが口端を歪めた。

「シャドウムーブ！」

　ヤカライの姿が消えた。と、思ったその時僕の胸が槍で貫かれた。

「な、そんな、お兄様！」

「馬鹿な！　大賢者マゼルが！」

「はは、やったぞ！　影から影へ移動するあいつの奥の手に見事引っかかったな！」

　父様とラーサが心配そうに様子を見てる。将軍は何か勝ち誇ってる？　そして地面からヤカライがとびだしてきた。

「はは、どうだ！　私の勝ちだ！　貴様でもこれには、え？」

　そしてヤカライが驚きの声を上げた。うん、どうやら気づいてなかったみたいだけどそれは――。

「残像だよ」

「な、なんだとぉおおおぉお！」

　ヤカライが弾かれたように背後に回っていた僕を振り返る。僕だと思った相手が残像で相当驚いたみたいだけど、う～ん、思ったんだけど。

「あのさ」

「はっ？　な、しま！」

　僕が懐に潜り込むと、その顔に動揺が走った。そしてがら空きのお腹目掛けて僕は肘打ちを決めた。

「正直、貴方よりレイサさんの方がずっと強かったですよ？」

「あ、が……」

　肘が腹部にめり込むと、ヤカライはお腹を押さえながら目を見開き、よたよたと後ろに下がっていった。そしてそのまま力尽きで前のめりに倒れる。

　ふぅ、ルールが変わったからね。戦意喪失を狙ったけどギリギリの加減っていうのも中々大変だね。

　う～ん、でもこれでよくレイサさんより強いなんて自信がもてたよね。確かに影魔法は面白かったけど、槍も魔法も中途半端なんだよね。

　特に影魔法は折角色々できそうなのに小手先にばかり頼ってる感じで次にどうくるかわかりやすかったし何より速度が遅かった。あれじゃあ躱してくれって言ってるようなものだよ。技のキレも含めてレイサさんには程遠いかな。

「馬鹿な、あいつは、幻覚魔法に転移魔法まで使えるというのか？　しかもあんな短い距離を何度も高速で！」

「はは、なるほど！　いや今のは私も肝を冷やしたが、まさか幻覚だったとは、流石大賢者マゼルであるな」

「お兄様、本当に、心配したんですからね」

「え？　終わったの？　私には何がなんだかわからなかったけど、マゼルが勝ったなら今夜はお祝いね♪」

　父様は喜んでくれてるけどラーサはちょっと涙ぐんでるね。心配掛けちゃったみたいだ……あと母様、そんな大げさなものじゃないので。

　でも、うん、見事にまた魔法だと思われてしまった……残像も回り込んだりした移動も普通に早く動いて生まれた結果なんだけどね。