第48話 魔力0の大賢者、畑を守る為解決に乗り出す

 ゴールデンスカラベによる肥料化は上手くいっていた。イナ麦の発育もよく、このままいけば順調に秋の収穫を迎えられそうだと、そう思っていたのだけど――

 

「大賢者マゼルよここに来て急に虫系の魔物が増えてきた。大賢者マゼル特製の殺虫剤も数の多さに耐えきれないようだ」


 そう、そうなんだ。収穫も近いこの時期に、突如畑を狙う虫の魔物が増えて、農地を荒らして回っている。


 僕もより効果的な殺虫剤を作成したりして対応していたけど、いよいよ追いつかなくなってきた。


 それにしても……あまりに唐突過ぎる気がする。虫系の魔物がこうも急に動き出すかと言えば正直疑問だ。人為的な何かを感じる。


 とにかく今は虫の駆除を第一に考えるべきだ。僕がカバーできる範囲にもやっぱり限度はある。一箇所にだけ集中しているならともかく、領地を包囲して殲滅しに来ているような印象さえ受けるほど。


「お兄様、ここは私も駆除に出ます!」

「お、俺たちも出来るだけのことはしたいと思ってる」

「前はマゼルに助けてもらったけど、やっぱり自分の家のことだもんね」


 モブマンとネガメも手伝ってくれるというけど、正直危険な気もする……ただ、あれから2人も魔法の訓練は続けていて、モブマンは初級ではあるけど火属性の魔法を、ネガメは鑑定魔法を使える。


 それにネガメは自分の家の畑は自分で守りたいという意思も強そうだ。

 だから今回はその気持ちを汲み取ろうと思う。今回は冒険者ギルドにも協力を仰いでいて、破角の牝牛の彼女たちも駆け付けて来てくれていた。


「それなら、破角の牝牛の援護という形でもいいかな?」

「あたいは構わないぜ。それにまだ小さいのにガッツがあるじゃねぇの。あたいはそういうの好きだぜ?」

「あ、姉御さん、かっこいいし綺麗だ、結婚してください!」

「調子に乗るな! 8年早いよ!」

「駄目か~」


 モブマンが天を仰いだ。うん、何か前、ラーサにも告白してなかったっけ?


「モブマンは相変わらず惚れっぽい上にすぐ振られるね~」

「ほ、ほっとけよ!」


 あぁなるほど。そういうことなのね。でも、すぐに女の子にアタック出来る気質は羨ましくもあるよ。


「いや、というか、8年はわりとリアル……」

「まさか、若い内に目をつけておいて成長してからに期待してるとかじゃないだろうね?」

「な、何を、そんな、は、はずないじゃ、ないかい! 余計なこと言ってるとあたいのカトラスが痛ッ!」

「また姉御が舌切ってるし」


 うん、いつもどおりで何かホッとするね。でも皆の実力は何度か行動を共にしたから判っているつもりだ。あれから更に鍛えたって話だし、頼りがいがある。


「いつも大賢者様にばかり頼ってもいられませんのでね。私も今回は戦闘に参加させていただきます」


 そう言ってくれたのはこの街のギルドマスターであるドドリゲスさんだ。得意魔法は支援魔法ということで盾役の冒険者を引き連れて畑の守りに入ってくれる。


「……マゼル、私も手伝う」

「僭越ながら、お嬢様のサポートとして馳せ参じました」


 今回はアイラも噂を聞いたらしくて手伝いに来てくれた。流石に魔物を相手するのにアイラだけじゃ心配らしくてメイサさんも一緒にね。


「メイサ様も魔法が得意なのですか?」


 ラーサが尋ねた。僕たちは舞踏会に呼ばれた時にメイド長として紹介はうけたけど、戦えるかどうかは知らないものね。


「はい。メイドとして必要な魔法は大体覚えており、庭に入り込んだ虫や虫の魔物を駆除するための殺虫魔法も扱えます」

「適材適所!」


 なんて最適な魔法なのか! この場に最も効果的なのではないかな?


「ですが、大賢者様がかつて使用したという伝説の殺虫魔法バグロストほどのものは流石に使用できませんが」

「それは流石に仕方ないと思うわ。伝説級なんて本当ここにいる大賢者マゼル様ぐらいじゃないと無理だろうし」


 いやいや、それも僕は知らないからね。メイサさんにフレイさんがフォロー入れてるけど、何でそんな魔法が……う~ん、思いつくことと言えば過去に同じ様に虫の大群に襲われて困っていた村で、拳で殴って虫が固まっている場所からピンポイントで空気を消し去ったとかあったけど、それじゃないだろうしね……。


 あの時は虫がやたら固まって移動してきたから通用した手だけど、何せ空気を消し去るなんて他に巻き込まれる相手のいるところじゃ使えないしね。


「殺虫魔法が使えるというのはすごく助かります。アイラには錬金魔法もあるしかなりこころ強いけど無理はしないでね」

「……大丈夫。それに私もマゼルの助けになりたい」


 そう言ってもらえるのは嬉しいけどね。でも辺境伯のお嬢様でもあるから無茶もさせられない。どちらにせよ魔法のタイプ的にアイラは支援、メイサさんは中距離ぐらいがメインになるだろうから。近接戦闘が得意な冒険者と組んでもらうことになるかな。


「大賢者マゼルにばかりはまかせておけんな。父として、いいところを見せるとき!」

「あらあら、貴方も張り切っちゃって。でも、私も久しぶりだけど大丈夫かしら?」

「大丈夫です! 折角お兄様がここまで育てたお米は、家族で守るべきですから!」

 

 父様と妹のラーサがすごく張り切っているね。そして今回は母様も参戦だ。母様は以前は教会の神官をやっていたから聖魔法が使えるんだよね。だから接近戦の父様と離れた位置から魔法で援護出来るラーサ、そして聖なる加護を与えたり回復も可能な母様とバランスがいいんだ。


「兄貴! 当然俺たちヒゲ男ズも協力を惜しみませんぜ!」

「大賢者様のご依頼とあっては参加せざるを得ませんな」

「私の髭が疼いている。魔物を切れと揺れている!」

「任せるちょび! やっつけるチョビ!」

「大賢者様。以前は色々と迷惑を掛けたので、私も手伝わせて頂くとしよう」


 うん、ヒゲ男ズも来てくれたよ。しかも今回はカッター領のギルドマスターであるヴァンさんも一緒だ。これは頼りになるね。


 その他、数多くの冒険者も参加してくれた。ちなみに僕は単独で動いて回ることになる。ある程度自分のところが片付いたら他の皆の様子を見に行くつもりだ。


 ローラン領の農地で重要なのは地点は6箇所。それぞれを、破角の牝牛&モブマンとネガメ組、アイラとメイサさんと冒険者組、父様に母様にラーサと冒険者組、ドドリゲスさん率いる冒険者組、ヒゲ男ズとヴァンさん組、そして僕で分かれる。


 よし、これで虫の魔物の群れをやっつけるぞ!

 それぞれ決められた地点に移動を開始する。僕も南部農地に移動したけど、早速ハンガーロータスの大群が攻めてきた。事前に最も大変そうなのはここだと思っていたけど、予想通りだ。


 ハンガーロータスは子犬ほどあるバッタのような見た目の魔物で、基本群れでやってきて畑を食い荒らす。


 今回も空を覆い尽くすほどの大群が迫ってきた。前回は千匹程度だったのにこれは十倍じゃ利かないね。相当な数だけど、こんな時の為に手は考えてある。


「はぁあああぁああ!」


 僕はその場で思いっきり回転する。体温変化で緩急をつけて勢いをつけてぐるぐると。こうすることで巨大な竜巻が発生、というより僕自身が竜巻になった。


 この状態のまま、ハンガーロータスの群れに、突っ込む!


「「「「「「「「「ギギギギギギギギギギギギギイィイィイイイ!?」」」」」」」」」」


 魔物の奇妙な鳴き声が鳴り響く。だけど容赦は出来ない。米を守るためだし、中途半端に倒してしまうと魔物の遺骸で地面が覆い尽くされるからね。

 

 だから竜巻の風力を強めて徹底的に粉々に砕いていった。素材はこの際仕方ない。魔石だけは残るようにしたけどね。


「あ、あれが大賢者様の魔法け?」

「あれだけの魔物の群れをこんな一瞬で……たまげたべぇ」

「と、とんでもねぇ、ありゃ奇跡だ! ありがたやありがたや~」

 

 何か近くで畑作業を続けてくれてた人たちが拝みだしてしまった……こんなの大したことないんですよ~と言ったけど逆に驚かれて参ったよ……。


 ま、まぁ、これで全部倒したね。魔石が雨のように落ちてくるけど、これで僕の方は終わり。他の皆はどうなったかな?

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