第49話 魔力0の大賢者、皆をサポートして回る

 僕の担当の農地にいた魔物は倒した。そこから先ず東の農地に向かった。そこではギルドマスターのドドリゲスさんと冒険者たちが畑にやってくる魔物を撃退してくれている。


「火の耐性はつけた! 魔物が吐き出す火を恐れるな!」

「「「「「「おぅ!」」」」」」


 相手をしているのはファイヤークロウラーという魔物だ。巨大な芋虫といった様相で表面が赤い。口が大きく作物や稲を貪り食う。


 このファイヤークロウラーは文字通り口から火を吐き出す。畑に近づけるとこの火でも駄目になるから近づかせないよう自ら盾になる冒険者もいた。


 だけど、ドドリゲスさんが使用したという魔法のおかげで火のダメージは軽減される。吐き出す炎さえ凌げればファイヤークロウラー戦はかなり有利に立てる。


 実際冒険者達は炎を盾で防ぎながら近づいていき剣で切りつけて倒したりしている。あの魔物は動きはそこまで早くない。だからこういうゴリ押しは結構効果的だ。

 

 うん、これなら問題ないかな。確実にファイヤークロウラーも潰していってるみたいだし……。


「お、おい! 何か妙だぞ!」

「倒したと思ったら、背中が、割れていく!」


 あ、いけない。どうやらファイヤークロウラの羽化が始まってるようだ。本来なら蛹になってからだけど、蛹化せずに直接羽化する場合もある。このやり方は寿命を大きく削るんだけど、このままやられるぐらいならせめて多くを道連れにってところか。


 羽化したことで何匹かがファイヤーモスに変化する。赤い羽根を生やした大きな蛾の魔物だ。


 ファイヤーモスは当然空を飛ぶ。そして炎ではなく火球を撃って攻撃してくる。そのため火吹きより飛距離が長い。空中から雨のように降らせてくる。


「ふん、火球だって火だ。今の俺たちには効かないぜ」

「馬鹿! 呑気なこと言ってるな! 畑が狙われたらことだぞ!」


 うん、ファイヤーモスの火球は飛距離が長いから、冒険者には大したことがなくても畑には当たる可能性がある。それに――


「なんか粉が振ってくるぞ。鱗粉?」

「あつ、なんだこれ! 熱! 熱!」


 ファイヤーモスの熱鱗粉だ。あれは火の耐性だけじゃ防ぎきれないしちょっとした火傷を負ってしまう。何より作物を枯らす要因になる。


 ここは大丈夫と思ったけど、やっぱり少し手伝った方がよさそうだね。


「ハァァアァアァア……」


 僕は体内温度を上昇させ先ずは汗をかき、すぐに気化させていく。これによって上空に雲の欠片が発生した。僕が生み出した小さな雲は今度は周りの水分を吸収し、膨張した。


 そして魔物たちの頭上を覆うほどの大きさとなった後、激しい雨が降り注ぐ。それは熱鱗粉を浴びた冒険者の火傷を癒やし、逆にファイヤーモスの体力を奪っていく。


 ファイヤーモスは水に弱い。少量ならともかくある程度まとまった雨を受けてしまうと鱗粉は撒けなくなるし、火球も小さくなる。何より羽が濡れるのを嫌う魔物でもある。


 一方で多少とは言え僕の汗が混じっているのでダメージを受けた冒険者の傷は癒えていく。おかげで形勢は再び有利に転じた。


「この雨、すげー傷が治っていくぞ」

「おい見ろ! 大賢者様がおられるぞ!」

「そうか、この恵みの雨は、大賢者様の超魔法だな!」

「これは、聞いたことがある。かつて大賢者様が行使した天候魔法の一つ! 敵には罰を味方には恵みを与えてくれるアメージングレイン!」


 ドドリゲスさんが興奮して語ってるけど、すみません、全く知りません。本当知らない間に魔法の名前まで決まってるんだから参るよね。


「「「「よし! 大賢者様にここまでしてもらってかっこ悪いところみせらんないぜ!」」」」

「「「「おう! なんとしてもこのデケェ蛾どもを駆逐するぞ!」」」」


 うん、冒険者達も張り切ってるし、ここはもう安心かな。さて、次へと移動だ。


「ひいいいぃい! イてぇ! イてぇよ畜生!」

「リーーーーダーーーー!」


 うん、北東部ではヒゲ男ズとカッター領のギルドマスターであるヴァンさんに任せていたんだけど、ムスタッシュがいきなりピンチだ!


「ギルドマスター! 大変ちょび! リーダーがヤバいちょび!」

「うるせぇ! こっちはそれどころじゃないんだ! そっちはそっちでなんとかしろ!」

「とはいえ、我々も目下交戦中。ふむ、我が髭に切れぬものなし! だが、いささか数が多い――」


 ちなみにすごい光景だ。アラクノスウォームは蜘蛛の魔物で、大きさは成人男性の足程度なんだけどやたらと群れて行動する。個体としての意識が低く、群れ全体を一つの個として考えて行動するから多少倒しても怯むこと無く向かってきて倒した相手を群れで食する。


 ただ、1匹1匹はそこまで強くなく、チョビの髭飛ばしや、ビアードの髭操作魔法、ドジョウの髭を両手に持った剣術で順調に倒されているね。


 ギルドマスターのヴァンはキリングリッパーというカマキリタイプの魔物と戦ってる。

 

 マスターは髭を全身にまとって装甲にしてる。キリングリッパーはあの鎌で鋼鉄も切り裂くし、鎌を飛ばしてもくるけど髭装甲で防御しながら打ち合ってるね。


 そうなると後は、ムスタッシュだね。他の皆は負けそうには思えないけど自分のことで手一杯だし。


 相手しているのはラッソスパイダー。糸を投げ縄のようにして相手を捕縛し、ぎりぎりと締め付けてバラバラにしてしまう。


 つまりこのままだとムスタッシュはバラバラだ。髭縛りを上手く操ってなんとか締め付けを抑えてるけど、抜けられそうにないね。


「あ、糸が燃えて!」


 だから僕は摩擦熱で腕に炎を纏い火球にして投げつけた。糸が燃えて焼き切れる。


 ムスタッシュは無事解放された。


「あ、兄貴! 兄貴が助けてくれたんですかい!」

「危なかったね。でも油断しないで、それとその糸は使用してる方にも弱点になるよ」

「え? どういう?」

「ラッソスパイダーは糸を投げた後でも軌道を修正してくるんだ。上手く避けて!」


 僕が叫ぶと、思ったとおりラッソスパイダーが糸を投げつけてくる。それをムスタッシュは避けるけど、蜘蛛が前足を器用に動かして縄が軌道を変える。


「そ、そうか! わかったぜ兄貴!」


 するとムスタッシュは追っかけてくる縄を誘導するように走り、そして大きな蜘蛛の背中に乗っかった。


 それに合わせて縄が動き、ムスタッシュの上から襲いかかる。だけど、ムスタッシュはギリギリまでひきつけてから横に飛んだ。


 それによってラッソスパイダーの投げた縄は、蜘蛛自身に嵌って締め付けてしまう。


「――!?」


 そして投げた縄に自ら嵌ったラッソスパイダーはパニックを起こし、その結果逆に縄を締め付けてしまい、当然――引き千切れる、そう完全な自爆だ。


 何故とも思えるけど、ラッソスパイダーにとって縄で捕らえた相手を締め付けるという行為は本能的な物。だから、例え自身が嵌ってしまっても、それは変わらず、自らを殺しちゃうってわけ。


「やった、やったぜ兄貴! 俺はやったぜーーーー!」


 うん、ムスタッシュがすごく喜んでるね。他のメンバーも大分片付いたようだし、ヴァンもキリングリッパーを倒し終えていた。


 うん、これならここももう大丈夫そうだね。


 だから僕は後は任せて、今度は北部の農地へ向かったんだけど。


「いや、いやぁあ! 気持ち悪い! 気持ち悪いよ~~!」

「あらあら、これはワラワラとまぁ」


 そこでは僕の家族が戦っていたんだけど、うん、なるほどこの大群は確かに、ラーサには耐えられないかもね……。

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