第25話 魔力0の大賢者、米勝負に巻き込まれる?
米の話も折角上手くまとまりそうだと言うのに、あのワグナー親子が横槍を入れてきた上、ガーランド将軍まで口を挟んできた。
そして今度は父様の領よりもワグナー家で米を生産した方がいいようなことを言ってきたんだ。米は父様の専売特許みたいなところがあるのにどうしてそんな話になるのか。
「しかしガーランド卿。現状米の原料となるイナ麦を栽培出来るのはローラン卿の領地だけなのでずぞ」
「それはただ単にローラン領だけがイナ麦の栽培方法を知っているというだけだ。その方法さえわかればどうということはない」
いや、それが一番重要かなと思うんだけど……。
「それにだ、今もいったがローラン領から交易所までは距離がある上危険だ。一方ワグナー領から交易所までの道のりは距離も半分で済む上、平地が多い。賊や魔物に襲われる心配も少ない。この部分だけ見てもどちらが最適かわかるというものだ」
ワグナーがまたニヤニヤしてて嫌な感じだ。
「更に言わせてもらうなら畑の面積もワグナー家の方が広い。ローラン家はほぼイナ麦の生産にあててるようだが、ワグナー家は大麦、小麦、とうもろこしに芋、それにぶどう園まで保持している。畑の面積だけ見てローラン家の倍はあるだろう。つまりワグナー家であればより多くのイナ麦の栽培が可能、ひいてはそれだけ多く米が生産できるということだ」
う~ん、なんだろう? 凄くもっともらしいことを言ってるようでもあるけど何か引っかかるね。
「ところでローラン卿。そちらでは年間どれだけの量の米を輸出出来る見込みなのかな?」
「はい。現状ではオムス公国に対し、年間を通して10万人が満足できるだけの量を輸出に回せる予定であります」
「お話にならんな」
「え? それは足りないということですか?」
「そうだ。オムス公国は小国とは言えその人口は100万人に達する程だ。それが10万人? 人口の一割にも満たないではないか!」
人口の一割、10人に一人ということだね。
「しかしガーランド卿。オムス公国は米についてよく知りません。全くの新しい食材であるなら最初はその量でも十分ではないかと」
「やれやれアザーズ侯ともあろうものが情けない。最初だからこそ肝心なのだよ。だからこそ十分すぎる量を供給する必要がある」
アザーズ様はどちらかと言えば父様寄りなようなんだけど、ガーランド将軍はどちらかと言えばワグナー寄りな気もするな。
「ワグナー卿。お前のところでは、米をどの程度生産できる見込みだ?」
「え? わ、私の領地でですか?」
あれ? でもなんかワグナーが急に焦りだしたような……。
「え~と、その……」
「ほう、なるほど、オムス公国の国民100万人全てが年間を通して満足できる量を生産可能か」
「な、100万人分ですか!?」
「そうだ。可能であろう?」
「え、は、はい! 勿論ですとも!」
何故かガーランド将軍ががふふんっと得意がった。それにしても100万人分とは大きく出たよね。
でも肝心のワグナーが狼狽えてるようだけど。
「聞いたとおりだ。これでワグナー家の方が運搬面でも生産面でも優れていることが証明されたな」
「いやしかし、流石にそれはあまりに決めつけが過ぎるのでは? そもそもまだワグナー領では生産できていないわけであるし」
アザーズ様がガーランド将軍の意見に待ったを掛けてくれた。そうそう、あの人の言ってることは机上の空論みたいなところがあるからね。
「ならば証明させよう。実際にワグナー領で米を生産させるのだ。そのうえでより多くの量を生産出来たほうに輸出を任せる」
「え? 米をですか? しかし可能なのですか?」
「ふふふ、どうやらローラン卿は米は自分のところでしか生産出来ないとお思いのようだが、ワグナーは既にその方法も会得している。そうであろう?」
「え、は、はぁ……」
何かずっと将軍ペースだけど肝心のワグナーの理解が追いついていないような気がするよ。
「聞いてのとおりだ。そこでだこの米の件は今後ワグナーがローラン家に変わって引き継がせるのが良いと私は考えておる。そこでローラン家には辞退を願いたいのだ」
「え? 私どもがですか?」
「何だ、不満なのか?」
「ガーランド卿。流石にそれは些か乱暴ではないか?」
「何を言う。それにこれはもはや一領地の枠だけでとどまる話ではない。オムス公国相手の一大事業なのだ。当然国を挙げての取り組みとなる。それであればより条件の良い方に任せるにこしたことはないだろう」
「ガーランド卿、そうは言いますが我々は肝心のワグナー領で採れた米をみておりません。それなのに条件と申されてもローラン卿には戸惑いしかないでしょう」
「私も同じ気持ちです。我々は何年も掛けて米の生産に取り組んできました。そしてオムス公国と取り引きできるところまで来たのです。それを急に辞退しろと言われても承服しかねます」
流石に父様もここは譲れないようだね。父様が米にどれだけ掛けているか、そして愛情を注いでいるかは転生後も見ていたからよくわかるよ。
「ふむ、そこまで言うならばはっきりと優劣を決めようではないか」
「え? 優劣ですか?」
「そうだ。米はこれから取り掛かれば秋頃に収穫時期を迎えるな。その時の収穫量で結果を決めようではないか。それで勝った方がオムス公国への輸出の権利を得る。どうだこれなら文句あるまい?」
「勝負ということですか……」
「そうだ。そこまで自信があるというなら構わぬだろう? それとも自信がないかね?」
「……いえ、わかりました。そこまで言われては引き下がれませんな。受けて立ちましょう」
父様もかなり熱くなってるね。それにしてもワグナーが蚊帳の外な気もするけど、それで本当に米作りなんて上手くいくのかな?
「よし、これで決まりだな。ふふ、しかしそちらは大賢者まで抱えている以上、ワグナーも油断はできんぞ。しっかりやれよ」
「は、は! 勿論! うちの米の方が優れていると必ず証明して差し上げましょう!」
最後だけワグナーが決意を表明したけど、何か本当に妙な話になってきたなぁ。よもやワグナー家と米取り引きの権利をかけて勝負になるなんて。
「なかなかおもしろそうな話をしているではないか」
「おお、これはこれはオムス殿下。今丁度今後の米取引の件で話を進めていたところです」
「うむ、遠巻きから聞かせてもらったぞ」
姫様聞いていたんだ。姫様は何か興味をもったらしくて悪戯っ子みたいな笑みを浮かべながら会話に加わってきたね。
「なかなかおもしろい話をしていたようであるが、それならば私からも一つ提案がある」
「提案でございますか? さて何でしょうか?」
「何難しいことではない。先ずその米の優劣を決める上で、生産量だけではなく質も考慮して欲しいという点」
「なるほど質ですか」
「うむ、いくら量があろうと質が悪ければ意味がないからな」
確かに安かろう悪かろうじゃないけど、いくら生産して輸出しても不味かったらお話にならないからね。
「それとその勝負の判定には公国からも派遣させて欲しい。それで如何かな?」
「は? 公国からですか?」
「うむ、何せ輸入するのは我が国である。ならば品質をしっかり確認しておきたいというものであろう? 何か問題があったかな?」
「む、むぅ……」
「勿論、私としては全く問題がございません。如何ですかなアザーズ侯?」
「私はローラン卿が問題ないと言うなら構わない。ガーランド卿にワグナー卿は如何かな?」
「も、勿論異存はない」
「み、右に同じでございます」
「そうか、ならばこれで決まりだな。楽しみにしておるぞ」
結局これでこの話はまとまってしまった。でも米の生産なんてそんな簡単なものじゃないのに、いくら栽培方法を知ってると言ってもそう上手くいくとかな?
まぁうちとしては一生懸命頑張るだけなんだけど。
◇◆◇
sideガーランド
ローランの連中と話がつき、一旦あの場を離れると慌てた様子でワグナーがやってきおった。
「ガーランド将軍、あのような話、私は聞いていませんでしたよ!」
「何だ、不満なのか?」
「い、いえそういうわけでは……」
ふん、この私相手に不平不満を口にするなど100年早いのだ。
「しかし、イナ麦の栽培はうちには経験がありません。それなのにいきなり100万人分というのは……」
「安心しろ。あんなものはただのハッタリだ。実際の勝負は生産量で勝てれば良い」
「ですが、その生産の術が……」
「お前は馬鹿か? 私が何の考えもなくあんなことを言うわけがないだろう。イナ麦の栽培方法は私も一つ知っている。しかもその方法なら間違いなく奴らより効率よく栽培出来るはずだ」
「え? そ、そうなのですか……あれ? しかしガーランド卿はローラン家の米の権利も欲しがってましたよね? ですがご自分で知っているのならその必要はなかったのでは?」
「……それは、だ。勿論米だけではなく畑ごと我が物にしようと思ってのことだ。自由の効く生産地は多いに越したことはないからな」
「は、はぁ……」
「ふん、とにかく、お前は念の為、改めてあの件も進めておけ。それも合わされば我らの勝利は確実なのだからな!」
ふふ、見ておけ。魔導人形に米料理の件といい、この私をコケにしたこと必ず後悔させてみせる。手札はまだ残してあるのだからな――
◇◆◇
sideマゼル
舞踏会も終わり、明朝には僕たちは帰り支度を整え城を出ることになるのだけど。
「……大賢者マゼルともっと話したかった」
「はは、そう言ってもらえると嬉しいな。うん、僕もアイラとお近づきになれてよかったよ」
「……マゼル」
「え~と、アイラ?」
アイラと帰りの挨拶を済ませ、握手も交わしたけど、何故かアイラが手を放してくれない。あれ~? もしかして暫く握手を続けるのがナムライ流なんだろうか?
「はいそこまでです。お兄様、もうすぐ出発ですよ」
「あ、そうだね。ありがとうラーサ」
「……むぅ~」
するとラーサが僕を呼びに来てくれて、そっとアイラの手を掴んで離した。何故かアイラが恨めしそうに唸ってるけど……。
「……また、会える?」
「え? うん勿論。米の件があるから秋にはくることになるしね」
「……! ん、楽しみにしてる」
「むむむぅ、何かライバルが増えた気がします」
ライバル? あ、そうか。お互いかなりの魔力を保有しているし、魔法を競い合うライバルってわけだ。これが俗にいう親友と書いてライバルと呼ぶってやつなのかもね~。
「もうお別れは済んだのかい?」
「はい父様。でも、また秋に再会する約束もしましたよ」
「うむ、流石大賢者マゼルだ。かの大賢者も随分とおモテになったというからな」
え? 前世の僕が? そんな馬鹿な。結局出会いなんて一切なく誰とも結婚出来なかったんだからさ。
「さて、帰りは引き続き破角の牝牛さん達に護衛をお願いする」
「おっ、何ら随分ろ久しうりに感じうぜ」
「あれ? 何か姉御さん呂律が回ってない?」
「姉御ってば、またカトラス舐めちゃって舌が痛くなったのです……」
「なんでやっちゃうのかな~」
「でもそういうドジなところも結構好きなんだけどね」
「ろ、ろじじゃれ~!」
いや~ドジだな~。
「ふむ、なるほど。彼女たちが護衛の冒険者なのか。それなら私もよろしく頼むぞ」
すると、姫様がやってきて破角の牝牛に挨拶した。そうだよね姫様が一緒なんだから責任重大、て、ひ、姫様!
「えぇ! どうして姫様が!」
「うむ、大した事ではない。舞踏会で食べたお粥も旨かったが、折角だからもっと色々な米料理が食べたくなった。なのでいい機会だ、大賢者の故郷でもあるローラン伯爵領にお邪魔させてもらうぞ」
「はは、聞いてのとおりだ。そういうことになったから、殿下の件も含めて皆宜しく頼んだぞ」
いやいや父様聞いてないし! いくらなんでも唐突すぎでしょ!
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