第7話 魔力0の大賢者、祭りになる!
「しかし恐れ入ったぞ。よもや後の大賢者マゼルがここまでの魔法を使いこなせるようになっているとは」
「いや、あれはそんな大したものでは……」
「何を言う! あれこそがかつて大賢者マゼルが行使せし究極魔法が一つ。【音魔法】の根源となった【キリングボイス】であろう! ナイス様が遺していてくれた文献にもしっかり書かれていたからな」
「あ、あれがあの伝説のキリングボイスなのですね! 絶対に破壊されないと噂されていたアダマンゴーレムを粉々にしたと伝説にある」
「うむ、ラーサはよく勉強しているな。アダマンゴーレムは文字通りその体が全てアダマンタイトで構成されたゴーレムで、斬撃にも衝撃にも魔法にも絶対的な耐性を持ち合わせていた。だが時の大賢者マゼルは、どれだけ外側からの攻撃に強くても外と内を同時に攻めれば破壊できると判断し、声を魔力で強化し破壊するという常人では及びもしない方法を成し遂げたのだ。音は外側だけでなく内側にも振動を与えるからな。まっこと素晴らしい御方だが、後の大賢者、いや、ここまできたらもう大賢者であるな! そう、今世紀最強の大賢者マゼルはわずか7歳にしてこの伝説級の魔法を体現してみせたのだ!」
もうやめてーー! そんな大層なものじゃないから! それ本当そんな大したものじゃないから!
確かにアダマンゴーレムはあの時倒したよ? 倒したさ! でもそれだって外とか内とかそんな細かいこと考えていたわけじゃなくて、全身がアダマンタイトって何か凄いなと思って思わず、すっごいなこれ! と叫んだら、ちょっと声が大きくなりすぎて破壊したってだけだから!
もう本当に魔法でも何でもないのに勝手にキリングボイスとかいう大層な名前の魔法として伝わっちゃうし、ましてや音魔法の根源とか烏滸がましい! 我ながら烏滸がましい!
「しかし、今世紀最強の大賢者マゼルよ」
「父様お願いですからその仰々しい二つ名はやめていただきたいのですが……なにか本当もう恥ずかしいですから」
「何を恥ずかしがることがあるものか! あれだけの魔法を使っておいて!」
「いや、でも父様」
「お父様、お言葉ですがきっと兄様はあまりに長すぎて口にするものが大変であろうと危惧されていると思うのです。お兄様は慈愛に満ちた最高の精神の持ち主でもありますから」
いや、本当ただただ恥ずかしいからってだけなんだけど。
「うむ、確かにそうかもしれないな。今後間違いなく史上最強の大賢者マゼルの名は広がっていくであろうが」
「父様、何かまた冠辞が変わっているのですが……」
「少し短くしてみたのだ。わかりやすくて良いであろう?」
「それもちょっと……」
「お父様、ここは下手に長くするよりも大賢者マゼル兄様でよろしいかと」
「いや、兄様つけるの?」
「あ、ごめんなさいつい……」
「うむ、しかし、少々物足りない気もするがやはり大賢者マゼルとしておくのが無難か」
「あの、大賢者もいらないような……」
「「それは絶対にゆずれ(ません!)ん!((きっぱり))」」
きっぱりと言われてしまった。あぁもう、だから嫌だったんだよ……。
「しかしやはりデススパイダーも大賢者マゼルの偉業であったか」
「いや、あれこそそんな偉業なんて言えるものじゃないよ」
「「それはない(です)!」」
えぇ~……だってあれ、僕の抗体だけで死ぬ程度の魔物だし……。
「ギルドマスターが言っていたが、デススパイダーを倒した魔法は、場合によっては禁忌とも称される究極の超毒魔法デスアダーによるものというではないか」
「え! あのこの世界に毒を創る魔法の概念を植え付けた伝説級の魔法ですか!」
「うむ」
うむじゃないよ! 何それ! 今そんな話になってるの? というか音魔法といいなんで魔法でもない僕の物理的行動が新たな魔法のきっかけみたいに扱われてるのさ!
あれほんと、僕の抗体、何か師匠はこれは超抗体! とか妙なこと口走ってたけど、とにかくそれをぶつけてるだけだからね!
「ですが、お兄様が禁忌を……」
「うむ、しかもこの禁忌となった超絶究極超毒魔法……」
「父様長いです。何か長くなってます」
「そうだったか? まぁとにかくだ、この禁忌魔法だが結局時の大賢者マゼル以降誰も再現できなかった伝説の魔法であるからな」
いやいや、それ色々おかしいよね? そもそも誰も再現できないのに何故禁忌! あと僕絡みの伝説魔法多すぎ! しかも魔法じゃないし!
「しかし、その禁忌の魔法をマゼルは使いこなしたのだ」
「流石ですお兄様! 妹として誇りに思います!」
「うむ、一説によると伝説の超絶究極禁忌毒魔法デスアダーは、使用すると一瞬にして大陸中に広がり一夜にして数十億が犠牲になると言われている大魔法だ。それだけの魔法を使いこなせるマゼルはやはり大賢者になるために生まれてきた、いや、かの大賢者の転生体に違いないであろう!」
「勝ったも同然ですね兄様!」
嬉しそうに言ってるけど、そんな物騒な魔法を使えるって普通に怖いんじゃないか……まぁ師匠はこの濃度を上げた抗体を雨にして降らせれば世界などあっという間に滅びるだろうみたいなことを言っていたけどそんな真似しないからね。
ふぅ、それにしても結局デススパイダーのこともバレてしまった。何せ既にヘヴィービートルを倒すの見られたわけだし、それなのにデススパイダーは知らないというのも無理があるかもだし、ここまできたらごまかすのも面倒だからね。
でも、その結果、結局ラーサが、もう喋っていいよね? という目で訴えてくるから木偶を切ったことがあるのも明かすことになってしまった。
「な、あの木偶を魔法で! 剣聖にしてようやく切れるとされたあれを、むむ、まさかそこまでとは! 流石であるぞ大賢者マゼル!」
何かそれも含めてやたら持ち上げられてしまった……でも、何か剣聖とか聞こえたような? うん、そんなわけないか。
僕がちょっと素振りしただけで切れちゃうあの程度の木偶、少しでも腕に覚えのある人なら魔法や剣でちょちょいのちょいだろうし。
「ところで父様、屋根に乗せたヘヴィービートルの頭はどうされるおつもりで?」
馬車に揺られながら町に引き返している僕たちだけど、屋根には残された頭が積んである。
僕の声でヘヴィービートルの胴体は粉々に砕けたけど、頭だけは残したからだ。ヘヴィービートルは大したことない魔物だけど、素材で報酬を受け取ることが出来る。
魔石はもちろん角なんかも買い取ってくれるからやっぱギルドにもっていくつもりなのかな?
「ふふっ、そんなことはきまっているではないか」
父様が嬉しそうに言った。うん、やっぱりこれはギルドで引き取ってもらうんだろうな。
◇◆◇
「さぁ今宵は皆で祝おうぞ! 時の大賢者マゼルの再来! 今世紀最強の大賢者マゼルが覚醒したこの時を!」
「「「「「「「「うぉおおおおぉおおぉおおぉおお!」」」」」」」」
なんだこれええええええええぇえ!
「と、父様、一体これは?」
「うん? 決まっているではないか。マゼルが私の前で初めて伝説級の超絶魔法を使い、あの凶悪なヘヴィービートルを狩った記念すべき日なのだから、当然今夜は大賢者マゼルの初狩猟を祝う祭りとなるのだ!」
「意味がわからないし大げさすぎだよ!」
「お父様、私どうしても一言申し上げたいことがございます」
「ら、ラーサ!」
どうやら妹のラーサが物申したいことがあるようだ。当然だね! いくらなんでもこれはやりすぎだ!
「この宴の名前がお兄様の凄さを表しきれておりません! ここはやはり究極だけではなく究極にして至高の最強の大賢者と……」
「そこ~~! いやいやむしろそこはどうでもいいよ! むしろやめてこれ以上大げさな名前つけるの!」
「あなた……」
あ、母様が出てきた。そうだよね、父様はちょっと暴走し過ぎなんだよ。普段から父様は母様の尻に敷かれているしここはビシッと!
「思ったのですが、今日という日を領民の祭日にしてみては如何かしら?」
「おお! 流石我が愛しの妻だ! 素晴らしいアイディアではないか! 皆のものよく聞いてくれ、本日より今日を祭日と定める!」
「「「「「「「「うぉおおおぉおおおぉおおぉお!」」」」」」」」
大歓声が起きた。母様までなんだよ! そもそもどうしてこんなふざけた祭りに町中が大騒ぎなんだよ……。
「マゼル! やっぱりお前すごかったんだな!」
町全体が飲めや歌えの大騒ぎになっている中、一緒によく遊んでるガキ大将っぽい彼が近づいてきて僕に褒め言葉を掛けてくれた。なんともこそばゆい。
「それにしてもあんなでっかいカブトムシを魔法で狩るなんて本当すごいよなぁ」
「あはは……」
ガキ大将のような彼……いい加減名前で呼んであげよう。モブマン、それが彼の名前だ。
そのモブマンが同い年にしては太めな指を向けた先、そこには何故か仰々しい台座が設置され、その上に飾るように僕が仕留めたヘヴィービートルの頭が置かれていた。
そう、てっきり冒険者ギルドに引き取ってもらうかと思えば、こんな使い方をしてくるなんて……しかもなぜか、大賢者マゼルが伝説の魔法で仕留めたヘヴィービートル、なんて文字が台座に刻まれてるし!
「大賢者マゼル様」
「あ、ネガメくん、いや、その大賢者とか様とかいらないからね」
「でも、僕の家はあなたのおかげで救われました。デススパイダーを倒してくれたんですよね?」
あぁ、そうか。もうそのことも知れ渡ってるんだ。ふぅ、もうそこは否定してもしかたないけど。
「確かに僕が倒したは倒したけど、でもこれからも今までどおり接してくれた方が嬉しいかな。せっかくできた友だちだし」
「お! なんだマゼル俺たちのこと友だちって、本当か?」
「当たり前だろそんなこと」
「友だち、そうか。うん! そうだねそれなら、これからもよろしくね! そしてほんとうにありがとう!」
ふぅ、とりあえず2人とはこれまで通り過ごせそうだな。でも、こうやって感謝されるのは悪い気しないかもね――
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