紺碧の重戦士

山本正純

紺碧の重戦士

 見渡す限りの大自然。秘境とも呼ばれる幻の地。ここに辿り着くまでが長かったと感傷に浸りながら、俺は巨大な門に向かって一歩を踏み出した。

 ここには、未知の物質が生成できるという実験器具、エルメラがある。それを奪う者たちが、次々に敗れていったと聞くが、そんなことは、どうでもいい。


 この地には、この国唯一の聖人と呼ばれる者がいるらしい。一目でいいから、その聖人に会ってみたい。会って、一戦交えてみたい。こんな思いで、俺はこの地を訪れた。

 足が地に着く瞬間、前方で二つの影が動いた。その存在に気付いた俺は、意識を集中させる。一瞬だけ浮かんだ影が何かを飛ばす。それは炎を纏う斬撃。

 咄嗟に槌を叩き、盾を召喚して、攻撃を防ぐ。


 一連の流れがうまくいき、無傷で済んだことにホッとしていると、俺の目の前に白いローブを身に纏う人物が二人現れた。顔はよく見えないが、身長は俺の半分くらい。

「あれを防ぐなんて、流石にょん」

 右側に立っているのは、深紅の太刀を手にした人物が語る。一方で左側に立っていた人物は、俺の顔を見た後で唸り始めた。

「ヘリス。この程度の相手なら、アタシだけで大丈夫そうだけど、どうする?」

「じゃあ、見学するにょん」

「了解ってことだから、最初はアタシが相手してあげる」


 マリーと名乗る少女は、俺の前で一歩を踏み出し、消えた。次の瞬間、マリーは俺の眼下に姿を現す。この地で暮らす異種族、ヘルメス族の瞬間移動だろうと理解するのに時間はかからなかった。

「アタシはエルメラ守護団序列二十位。紺碧の重戦士。マリー」

 こんな自己紹介の後、マリーは地面を槌で叩く。そうやって現れた魔法陣の上に立ったマリーは、その場で一回転した。

 間もなくして、そこから現れたのは、いかにも固そうな巨大な鎧と両腕に装着

された盾。それにはいくつもの砲台のようなものが取り付けてあった。二本の角が生えた兜を被り、そこから青色の一つ目が覗き込む。

 俺よりも二つ周り大きい紺碧色の鎧兜は、ゆっくりと動き出した。

「まずは、小手調べの第一形態。受けて立つが良い!」とマリーが発したのはいいが、その動きはゆっくり過ぎる。止まっているのか、動いているのか。全く判断できないほど。


 相手はかなり重装備で、動きが制限されている。紺碧の重戦士という二つ名の意味を理解できるほどの時間や余裕が、今の俺にはあった。

 コイツを倒さないことには、前に進めさせてもらえない。ここは集中するべきではないだろうかと考えた俺は、金色の槌を叩く。聖人とやらと戦うために、大金で買ったコイツの性能を確かめる絶好の機会だ。

「いけぇぇ!」と叫んでいる間に、魔法陣から巨大な腕が飛び出す。召喚まで少し時間がかかるけど、目の前の敵は、まだ一歩も動いていないはずだった。



 気が付くと、マリーはいなくなっていた。どこに消えたのかと考える暇を与えず、ドンという何か重いモノが落ちる音が響いた。土埃が舞い、地面に大きな穴が開く。魔法陣が刻まれた地面が文字通り押しつぶされた時、開いた口が塞がらなくなった。

「俺のゴーレムのファイナルブレーキが!」などという意味のない叫びがこだまし、土埃の中で重戦士の青い一つ目が光った。ゆっくりとした動きの鎧兜は、一歩を踏み出すごとに地響きを鳴らす。迫りくる門との距離は近くなっていく。幸いにもこの危機を脱する方法を考える時間はいっぱいある。


 ゴーレムが秒殺されてから、十秒が経過した頃、俺は鋼鉄の槌を叩き、太刀を召喚した。右手に剣、左手の盾を装備した俺は、動きの遅い戦士に向かって、駆けだす。

「頼むぜ、相棒!」

 一緒に旅を共にした装備たち。相棒と呼んでも過言ではない武器で、ノロマな敵を斬りつける。しかし、鎧兜は一切傷つかなかった。何度も剣を振っても、鈍い音がするだけ。盾で攻撃が防がれているわけではない。鎧兜が異常に硬すぎるのだ。

 やがて、重戦士の盾が、一生懸命攻撃を仕掛ける俺の方を向いた。そうして、盾と合体した砲台は炎を吹く。


 一瞬で目の前が真っ暗になった。気が付くと、俺は病院のベッドの上にいた。真顔な医者によると、どうやらヘルメス族のマリーと名乗る少女が、俺を搬送したらしい。

「まずは、紺碧の重戦士を倒す」という新たな目標を口にしながら、俺は火傷の跡を、そっと指で撫でた。

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紺碧の重戦士 山本正純 @nazuna39

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