缶コーヒーは語らない(仮)
南河原 候
二人の出会いは缶コーヒー?
とある雪の日、俺は妖精を見つけた。いや、正確に言えば本物では無く容姿が容姿の様に美しい女性を見つけただ。
艶々しい銀髪ストレートロング。二重の瞳で色はとても綺麗な
そんな子が一人で公園のベンチに座っている。ここには俺と彼女以外誰も居ない。そりゃあ、そうだ、今は夜の十九時で空は真っ暗。公園のベンチの隣にぽつんと立っている街灯だけがこの場にある灯りだ。何故、彼女様な人がこんな夜に一人で居るのか俺には理解出来ない。俺はちょっと缶コーヒーをここにある自販機に買いに来ただけだ。近くにコンビニが無いとか不便だなぁ。
彼女の視線が俺に向く。硬直してしまう。彼女に見られると身体が動かなくなってしまった。
暫くお互いに見つめ合って居ると、彼女が手招きをする様に手を動かしてきた。え、呼ばれてる? 何で?
分からないが、行ってみようかな。
足取りは遅い方で彼女に近づいて行く。俺が歩く度に静か空間にザク、ザク、という音が広がる。
「!?」
間近で見ると更に綺麗に見える。ぽんぽん、と自分が座っているベンチの隣を手で軽く叩く。少し間はあったものの俺は彼女の隣に座る。
無言。どちらとも無言だ。とてつもなく気不味くて仕方ないんだが。でも、視線がいちいち彼女に行ってしまう。
「ふふ、見過ぎだよ?」
「うぇ?………ご、ごめん」
「いや、いいよ。もう慣れてるから」
慣れている? そりゃあ、そうか、彼女みたいな人に見とれない奴なんていないだろうし。
「やる」
ジャケットのポケットからさっき買った缶コーヒーを彼女に差し出す。
「え。悪いよ」
「大丈夫だ。もう一本ある」
もう一つ缶コーヒーをポケットから取り出して彼女に見せる。
「あー、じゃあ、貰う」
彼女に缶コーヒーを渡すと、膝の上で両手で包み込む様に持った。俺は缶コーヒーを開けて口に含む。うん、旨い。どんなコーヒーを飲んでもこの缶コーヒーが一番旨いと思ってしまう。
「………」
「?………あ、微糖駄目?」
「いえ、大丈夫ですよ」
そう言うと、彼女は缶コーヒーを開けて飲みだした。少し長めで、口から離すと、ふぅ、と息を軽く吐いた。
「いや、その、ごめん。せがしたみたいで」
「ん? 大丈夫だよ」
また、沈黙が続く。俺も彼女も缶コーヒーを飲むだけで一言も口にしない。
先に言葉を発したのは彼女だ。
「その、ごめん。名前教えて貰っていいかな?」
「えっと、
「狼君ね。私は
真白。俺が思ってる字でいけば彼女にぴったりの名前だ。雪の妖精みたいな容姿に真と書いて白で真白なら彼女にぴったりだ。真っ白でな。
「ねぇ、狼君って同じ高校の人だよね」
「え? 待ってくれ! 少し待ってくれ!」
待てよ、こんな奴が同じ高校に居て俺は今まで知らなかったのか? 思い出すんだ、俺のプライドにかけても思い出すんだ! こんな子を知らないはずがないんだ。
「ごめん。思い出せない」
「あはは、そりゃあそうだよ。違うクラスだし」
「………そうか」
いや、クラスが違うだけなら、キミみたいな子なら知ってると思うんだけど。ん? でも、何で真白は俺を知ってるんだ?
「な、なぁ、真白………さんは何で俺を知ってるんだ?」
「さんとか要らないよ」
「そうか」
何か、真白にはさんを付けた方が良いと思ったけど、怒られてしまった。でも、肝心の答えを聞いてない。もう一度訊いてみよう。
「なぁ、しつこいけど、何で真白は俺を知ってるんだ?」
「………」
無言になってしまった。何かあるのだろうか。真白は指で髪の先っぽくるくると巻き『うーん』と少し困った顔をする。そんなに答えずらい事なのか? 何故だろう、めっちゃ気になる。
「あ、その、まぁ、狼君が思い出してよ!」
「いや、さっきも言ったろ。思い出せないって」
「うっ………じゃあ、こうしない? 狼君が思い出したらメールで教えるって」
「いや………もうそれでいいわ」
諦めた。多分このまま続けても真冬は喋る気は無さそうだし、それならその提案に乗って自分で思い出してやる。
「じゃあ、メアド教えて」
「え?」
「え、じゃなくてメアド! まさか、携帯持ってない?」
「いや、あるけど」
スマホをズボンのポケットから取り出す。そして、真白とメアド交換する。
「………」
って、普通にメアド交換したけど、えぇぇ!? こんな子とメアド交換とか本当に良いのか!?
「えへへ。狼のメアド!」
「へ? 今なんて」
「ッ!?──いや、何でも」
何か、一瞬だけ
「なぁ、真白、やっぱり教えてくれないのか?」
「駄目。それに約束したし。狼君は約束を破らないんでしょ」
悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる真白。それにドキッとしてしまった。俺は約束を破らないか、何故か懐かしく思えてしまう。
そこで、一瞬だけ昔の記憶が脳内を過る。
「………まーちゃん」
「ッ!?───え、もう思い出したの?」
「え。俺、今何か言った?」
「っ………ううん、何も」
真白は首を横に振るう。俺、何か言ったよね、でも、思い出せない。さっきの記憶ぽい物も全くすら思い出せなくなっていた。
「うーん! ふぅ、そろそろ帰るね」
真白はベンチから立ち上り、大きく腕を広げて固まった身体を伸ばして、こちらを見ながら言う。
「おう。じゃあな。学校で会えたら」
「ふふ、そうだね。二年生では同じクラスになれるといいね」
***
部屋の窓から空を見る。空は曇ってるから星空なんて見えない。ただ暗い空。俺はまた帰りに買った缶コーヒーを片手に、
「コーヒーは旨いな」
それから、春になり真白とは同じクラスになれて、そこからは色々な事があった。でも、二年生の冬、俺の隣にはずっと真白が寄り添ってくれていた。
缶コーヒーは語らない(仮) 南河原 候 @sgrkou
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