骨折したら異世界召喚?!~骨が折れただけなのに?~
ゆなか
プロローグ
朝の出勤時。
曲がり角を曲がると…。
「きゃ…っ!」
正面から歩いて来た人とぶつかり、弾かれる様にして転んだ。
転び方が悪かったのか・・・ズキズキと右の足首が痛む。慣れない高いヒールを履いていたのが原因かもしれない。
「大丈夫ですか?!」
ぶつかった相手の人は倒れたり、転んだりはしなかったらしい。
慌てた声が私の方へ向かって来る。
「…大丈夫です。」
足首を押さえながら、笑顔を作って顔を上げると……。
今まで見た事のない位の超絶イケメンが目の前にいた。
サファイアブルーの瞳。オールバックにした金色の髪。
クールビズ仕様のスーツを着てはいるが、その姿はまるで物語に出てくる王子様の様だ。王子だ。王子がいる…。
そんなイケメン王子が、朝日をバックに心配そうな顔で私に手を差し伸べて来た。
地面に座ったままなのも忘れ、ポカンと見上げてしまう。
「・・・本当に大丈夫ですか?」
手を差し伸べたままの状態で、困惑しているイケメン王子。
「だ、大丈夫です!…あ、痛っ!!」
善意のその手を取り、急いで立ち上がろうするが…右足首に激痛が走り、立ち上がる事が出来なかった。
「…あ、ありがとうございます!」
バランスを崩した私の身体を咄嗟に支えてくれたイケメン王子に感謝をした。
ズキンズキンと痛む足首のせいで、先程から冷や汗が止まらない。
まさか…折れてたり…?
サーッと更に血の気が引いて行く。
と、取り敢えず…仕事場に電話をしなければならない。
最近、雇ってもらったばかりの派遣社員には、一分一秒の遅刻も許されない。
イケメン王子の善意に甘えて、そのまま道路脇の花壇の縁に座らせてもらった私は、ガサガサと慌ててバッグの中を探ってスマホを見付け出した。
プルルルルル・・・。
『はい。○丸商事です。』
年配の女性の声が聞こえて来た。電話を取ったのは社長の奥様だ。
キュッと胃が痛む。
この人は苦手だ。きつい事を平然と言える人だから…。
「おはようございます。派遣社員の木野です。出勤途中にちょっと人とぶつかって怪我をしまして…申し訳ありませんが、病院に行ってから出勤しても…大丈夫でしょうか?」
『あ、でしたらもう結構です。』
「…え?」
結構ですって…どういう意味…?
『あなたの代わりは幾らでもいますので、契約はこれで終了させて頂きます。』
端的な言葉。電話はブツリと一方的に切られた。
マジですか…。
私はスマホを持ったまま、がっくりと項垂れた。
やっと就職出来たのに…。
私の頭の中は後悔と絶望でぐちゃぐちゃだった。
確かに良い会社ではなかった。どちらかと言えば・・・いや、普通にブラックな会社だった。どんどん担当外の雑用を押し付けられるし、勿論、定時でなんか上がれない。
社長とその奥様の独裁的な運営・・・。
しかし私には、それを我慢出来る理由があった。食べ盛り、青春真っ盛りの17歳の高校生の弟。この子を養う為なら何でも頑張れるのだ。
私は
平凡で典型的な日本人の容姿である。
両親は私が高校生の時に交通事故で亡くなってしまった。
現在は、7歳離れた弟と二人暮らしをしている。
高校を卒業してからずっとお世話になっていたアパレルメーカーは、服の売れない時代の流れか・・・最近、倒産してしまったのだ。
両親が残してくれた保険金はあるが、弟を大学まで進学させる為には、お金は幾らあっても良い。残ったら弟の結婚資金にもなるしね。
前の仕事を失くし…、失意のまま派遣会社に登録すると、幸運な事に直ぐに派遣が決まった。これからバリバリと仕事をするはずだった矢先にコレだ・・・。ついてない・・。
はあ・・・。
深い溜息を吐いた私は、両手でパチンと頬を軽く叩いた。
さあ、くよくよするのは終わり!!
派遣会社に電話をして、早く次の仕事を紹介してもらわなければならない。
事務仕事なら怪我をしていても雇ってくれる所があるかもしれない。
それに、次の職場は良い所に当たるかもしれない。そう考えれば前向きになれる気がした。
でも、その前にはまず病院へ行かねば…。
ふと顔を上げると・・・
目の前には先程のイケメン王子が腰を落とした状態で、微笑みながら私を見ていた。
え・・・?
頭の中は『?』でいっぱいだ。
朝の忙しい時間だよ?
それなのにこの人、私が気付くまで待っていたの…?
『慰謝料』
唐突にその言葉が頭に浮かんだ。
実はこのイケメン王子もどこか怪我をしていて…その治療費をぶつかって来た私に請求したかったのかもしれない。
どうしよう…。
おずおずとイケメン王子を見返す。
すると…。
「事情は勝手にですが…把握させて頂きました。あなたが怪我をしてしまったのは私のせいですし、良かったら怪我が治るまで、お世話させて頂けませんか?」
返って来た言葉は予想外のものだった。
『お世話させて頂けませんか?』って…。
…新手のナンパ?
いやいやいやいや。
…この人、危ない人かもしれない。
ほいほいと付いて行ったりしたら、どこかに売られてしまうのではないだろうか?
平凡な容姿の私だが…内臓的な需要はまだあるはずだ。
あからさまに引いた私に気付いたのか、イケメン王子は苦笑いを浮かべた。
「私は怪しい者ではありませんよ?」
余計に怪しいわ!!
心の中で突っ込みを入れる。
自分の事を怪しくないと言う人の胡散臭さといったら…。
警戒心むき出しの猫の様な状態になってしまった私に業を煮やしたのか…。
「あなたの怪我の具合も気になりますし…ちょっと強引にさせて頂きますね。」
イケメン王子は私の腕を掴みニコリと微笑むと、パチンと一回指を鳴らした。
その瞬間に…私の視界は、ぐにゃりと歪んだ。
回転しているジェットコースターに突然乗せられたかの様な気持ちの悪さに、思わず口元を押さえる。
圧し掛かり続ける重力に耐え切れなくなった私は……そのまま意識を手放した。
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