世界は二人(仮題)
骨男
イントロダクション
「名前なんてどうでもよかった」
一年の刑期を終えたばかりだというのに、光井雄二はとても不服そうに芋焼酎の水割りを啜った。わたしはただなんとなく、その骨ばった横顔を眺めていた。彼は、素性も知らない女と十年間連れ添い、やがて彼女が病に伏せて息を引き取っても、数ヶ月間そのまま共に暮らし続け、やがて逮捕された。駆け出しのライターだったわたしは、仕事の合間に立ち寄ったラーメン屋で初めてそれを知った。数年ぶりに見る光井の顔は、黄ばみ防止のためにモニターに貼っ付けられたサランラップのせいでボヤけて太って見えた。そのワイドショーでは、コメンテーターのお笑い芸人が光井の行動を「不可解ですね」と切り捨てていた。でもわたしには彼の気持ちが理解できた。光井とヨリコさんは、そういう二人だった。わたしは大して美味しくもないラーメンを食べ終え、大して興味もない仕事に出かけ、大して楽しくもない一年をやり過ごして、出所した光井に連絡を取った。わたしがどれだけ質問しようと彼は「覚えていない」「知らない」「どうでもいい」と話したがらなかったが、それでもわたしはしつこく彼にしがみついた。
これから話すことは、その隙間からこぼれた事実に基づく、彼らが過ごした「どうでもいい」日々の物語だ。
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