第十二巻 順風満帆に進んだかと思っていたはずの日常、そして愛華のやる気と美樹のやる気の温度差とは?

転入生の須久里 穂希ちゃんと休日にデート(実際は服を買いたいから付き添って欲しいと言う意味だと思う)する事になった私は、彼女が転入初日から私へのアプローチが凄かった為、色々と緊張感でいっぱいだった。

今回は2人っきりだから何か起きてしまうのかと言うドキドキ感もあり、いざ待ち合わせ場所へ・・・

既に到着していた穂希ちゃん、私は色々と彼女の返しを想像していた。

いざ、服屋さんで色々と試着しながら購入していく穂希ちゃん。

そしてひと段落した後、昼食を食べる為にお店に入った。

知らないだろうと思っていたお店も知っていた穂希ちゃんは、幼少期の頃に従姉妹の舞さんとよくこの界隈に来ていたのだとか。

変わらない街並みに安堵感を覚えた穂希ちゃん。

突然「綺麗だね・・・」と言葉にした穂希ちゃんに私は一瞬驚いてしまった。

その綺麗だと言うのはどうやら店内に飾っていた絵画の事だった。

私もその絵画をよく見てみると・・・

何とその絵画は政樹が描いた様な繊細なタッチのイラスト。

食事を済ませ会計を済ませた直後穂希ちゃんが店員さんにその絵画を誰が描いたのか尋ねてくれた。

やはり私の予感は的中していた。

描いたのは加賀谷さんだと店員さんはそう告げた。

年齢も私たちと同年代の学生が描いたらしい。間違いない、あの絵画を描いたのは政樹、加賀谷 政樹だ!

店員さんは次回は是非政樹と一緒に立ち寄って下さいねと言ってくれた。

その後、私たちはしばらく歩いて周辺を散策していた。

そして狭い道へ入った時だった。

トラックがスピードを出しながら私たちの方へ突っ込んで来た。

道路側を歩きながら私をガードしてくれた穂希ちゃんがトラックに轢かれそうになる。

目を閉じていた私は何が起きたのか分からなかった。

直ぐに穂希ちゃんが私に声を掛けてくれた。

どうやら私が無意識の内に穂希ちゃんを自分の方へ引き寄せていたみたいだった。

穂希ちゃんは本来、私が助けなければいけなかったのにと涙ながらに自分を責めようとしていた。その姿を見た私は、きっと穂希ちゃんも私たちの様に普通の女の子なんだとその時私は確信したのだった。

その後、トラックは逃げて行こうとしたけど、ナンバーを穂希ちゃんがしっかりとチェックしてくれていたおかげもあり、そして私たちも検査をして何も無かった為、事態は終息した。

政樹にもお店に自分の絵画が飾っている事を伝え、恥ずかしがっていたけど、穂希ちゃんも絵画を幼少期から見ていた為、その目でさえも政樹の絵画を高く評価した。


舞さんから持ち出されていたモデルの件で連絡が入り日付の調整に入り、その後舞さんからのもう一つの依頼があった。

姉である茜にもモデルを頼めないかとの事。どうやって私はお姉ちゃんに伝えれば良いのだろうか?

その様に考えていると、話を聞いていた政樹も介入して来た為どう伝えれば受けてくれるかを聞いてみたけど、良い案件が思い浮かばず・・・

試しに政樹に直接お姉ちゃんに話を持ち掛けてみて欲しいと告げ、いざお姉ちゃんに話をしていると・・・

案の定、お姉ちゃんを説得するべき所を逆にお姉ちゃんに言いくるめられてしまった。

見ていた私が本題に戻す。

するとお姉ちゃんと舞さんの思わぬ過去を私に告げる。

色々と深い過去だったみたいだけど、私には何が何か分からない間にお姉ちゃんも参加してくれる事になった。

そして何か心の中の枷が外れたかの様にその後お姉ちゃんは舞さんに連絡をした。

こうして私たちのいつもの日常はまた平穏を取り戻したのだった・・・って別に平穏じゃない訳じゃないか・・・











結局モデルのお仕事はお姉ちゃんと一緒にする事になった。




愛華「えぇっと、緊張する・・・」


茜「大丈夫よ。サイン会みたいなノリでやっちゃえば」


愛華「だ、だって、初めてだしサイン会の時だって初めての時はすっごく緊張したんだよ?」




この間の話通り、私たちは休日モデルのお仕事に出向いた。

現場はスタジオで舞さんが撮影の準備に入り、丁度待ち時間、撮影する部屋の椅子に座っていた。




アシスタント「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ?編集長、私たちには厳しいですけど、モデルの人とかには格段優しくなるので・・・特にずっと憧れていた茜さんがいらっしゃるので朝から私共に対しても気味が悪くなるくらい優しくて・・・」


茜「そんな・・・私は・・・」




そうこう話をしていると・・・




舞「待たせたね!さぁ、早速始めようか!」




いつも張りのあるしっかりとした口調で話をしているイメージだったけど、今日はスタジオ内だからだろうか?それともやっぱり舞さんの気持ちの入れ方の違いなんだろうか?いつもとは違った雰囲気を感じた。




舞「二人共、そんなに緊張しなくても良いから、私が言った通りのポーズを取ってくれれば良いよ!」


茜「えぇっと・・・それは良いんだけど、どうしてこんな水着を?・・・もう少し落ち着いた格好だって言っていたと思うんだけど?」


舞「あぁ、雑誌に載せるのはこの後に着替えてもらった後のやつだから・・・」


愛華「え!?・・・この後着替えるやつが雑誌の写真なんですか?」


茜「じゃぁ・・・このエッチな水着写真は?・・・」


舞「勿論非公開さ♪」




非公開?・・・それって出回らない写真だよね?・・・それをどうして撮影するのかな?




茜「非公開・・・まぁ、こんな格好が出回るのは私としても流石に恥ずかしいわ・・・けれど、非公開ならそもそも着る必要も無ければ撮影する事なんて無いわよね?」


舞「♪あぁ、そうだね!だからさ!だから私だけの写真を先に撮っておいて・・・」




ガツンッ!!!




舞「いたっ!・・・いや・・・折角撮影に応じてくれたから・・・その・・・欲しくて・・・」


茜「私たちの?」


舞「・・・・・・・うん!」


茜「はぁ~・・・愛華?嫌なら断りなさい!この格好は別に強制じゃないみたいだから!」


愛華「えぇっと・・・」


舞「・・・・・・・・・・(キラーン☆)」


愛華「や、やります・・・お姉ちゃんだけにやらせる訳には・・・」


舞「流石、愛華ちゃんだ!」


茜「半分強要しているわよね?それ・・・舞が欲しい写真だったら後でいくらでも撮らせてあげるから妹にまでこの様な格好をさせるのは止めてくれないかしら?」


舞「ひっ!・・・そ、その目は・・・うぐっ・・・分かったよ。ごめん。普通に撮影する事にするよ」




お姉ちゃんの眼力でこの事前撮影は取り消しになった。

後から聞いた所によると、二人きりで別の日に撮影をしたらしい・・・

特に内容については聞かないでおいた。




休み明けの学校にて




夏葉「随分と久々の登場の様な気がしますわ?・・・って事はさておき!!如何でしたの?初のモデルのお仕事の方は?」


愛華「えぇっと・・・誰に言っているのか分からないけど、モデルの仕事の方は無事に終わったよ。来月発売の雑誌に載るみたい・・・月間誌だって言ってたけど」


智也「遂に現役美少女JKのモデルデビューの日も近いか・・・香波のその顔や容姿だったらウケる事は必至だな」


愛華「あ、あまり持ち上げないでよ・・・結構恥ずかしいんだから・・・」


女子クラスメイト「えっ!?香波さんモデルするの!?凄いじゃない!?私チェックするからどの雑誌に載るか教えて?」


智也「俺が半年程前に載ったやつだってさ?」


女子クラスメイト「嘘っ!?あの雑誌ってかなり上級のモデルばかりしか載らないって聞いてたんだけど!?香波さんか・・・香波さんなら納得だよね♪」


愛華「うぅっ・・・・・・・・」


夏葉「愛華さん?大丈夫ですか?もしかしておも・・・気絶しそうなのでしょうか?」


愛華「どっちもあるかも・・・」


政樹「おぃおぃ、どっちもって・・・えぇっと、愛華ちょっと恥ずかしいみたいだから・・・来月発売される号みたいだから!」




こんなにも注目されてしまうなんて・・・ちょっと怖い様な気がする。

しかも上級のモデルさんばかりしか載らないとか私たち姉妹が載っちゃっても良いのかな?




政樹「愛華?少し顔色が悪いぞ?大丈夫か?」


愛華「う、ううん、大丈夫・・・ありがとう・・・」




そして遂に雑誌発売日の朝を迎えたのだった・・・




愛華「どどど・・・どうしよう?・・・きょきょ、今日発売日・・・」


政樹「おい、落ち着け愛華?挙動不審も度を越えているぞ?」


愛華「だだだ、だって・・・私たちが・・・写真ででで・・・」


茜「大丈夫よ!ちょっとだけしか載っていないって言ってたから。見開き2ページ位じゃないかしら?」


政樹「そんなに少なかったんですか?意外だな・・・時間結構掛かったんでしょ?」


茜「えぇ、ほとんど舞の趣味みたいなモノだったみたいだから・・・」


愛華「そ・・・それなら・・・よ、良かったかも・・・(ホッ)」


茜「♪~」


政樹「えぇっと、愛華に聴こえちゃうといけないから耳元ですみませんが、嘘ですよね?今のって・・・」


茜「勿論♪表紙から大半私たちの特集だって♪」


政樹「流石、茜さんだな・・・」




だが、そんな茜さんのカムフラージュも一瞬の内に無駄になる事はこの後学校へ登校した後に発覚する訳で・・・




智也「おい、聞いて無かったけどさ、スゲーじゃないか!?ほとんどが香波姉妹の特集だぜ!?」


政樹「そ、それは大きな声で言わないでもらいたかったのだが・・・」


愛華「・・・・・・・・・・・・・・・・(ガクブルガクブル)」


夏葉「あらあら!?愛華さんがガクブルされていらっしゃいますわ!?如何なさいましたか?」


愛華「(ガクブルガクブル)」


智也「それにしても香波ってお姉さんもすっごく美人なんだな!?モテるんじゃないのか?」


愛華「(ガクブルガクブル)」


政樹「登校前に余りにも緊張感が強過ぎてキョドってたんだが、茜さんが上手く抑える様に話を持ち掛けてくれたのに、結局無駄になったな・・・(はぁ~)」


女子クラスメイト「ちょっと、朝売店で買って来たんだけどこれほとんど香波さんの姉妹特集じゃない!?凄いわね・・・今まで同じ人でこんなに沢山のページ占めた事って無かったわよね?」


智也「あぁ、それだけ香波姉妹には魅力があるんじゃないか?」




そ、そんな理由じゃないなんてとても言えないよ・・・

青葉君でさえもそれ程多くのページを占めていた訳じゃないし、雑誌の編集長自ら撮影してそれも私じゃなくてお姉ちゃん目当てだって言う事なんてとても言えない・・・




夏葉「芸術一家と言った所ですわね!」


穂希「おはよう・・・おや?その様子だともう見ているのかい?愛華ちゃんの所には献本、届いているだろうから既に確認済みか・・・」


愛華「え!?・・・見て無かったよ?」


穂希「そうだったのかい?普通そう言うのが届いている筈なんだけれど・・・」


政樹「あぁ・・・恐らく茜さんが隠していたんじゃないか?愛華がこの有様だったからな・・・」


穂希「あぁ、さっきまで震えていたみたいだね・・・(汗)」




帰宅後にお姉ちゃんから聞いた話だと、どうやら発売初日で通常の1.5倍程売れ行きが好調だったみたいで、出版社にも私たち姉妹の事についての問い合わせが止まなかったみたいで・・・




愛華「(ガクブルガクブル)」


政樹「愛華、まだガクブルしてるのか?メインヒロインの座が別の子に移るんじゃないのか?」


愛華「そ、そそそんな事言っても・・・おね、お姉ちゃんが・・・」


政樹「まぁ、直ぐに慣れるんじゃないのか?ほら、サイン会の時も直ぐに慣れたって言ってただろ?人間慣れるかな!」


愛華「でででも・・・」




♪プルルルル~プルルルル~ブブブブブ・・・ブブブブブ♪




愛華「きゃっ!!・・・な、ななな携帯ががが・・・」


政樹「ははは♪お前、携帯までブルってるな」


愛華「えぇっと、美樹ちゃんからだだだ・・・も、もしもしもし?・・・みみみ美樹ちゃちゃん?」


政樹「おい、そろそろ戻れ?」


美樹「ちょっと電波の入りが悪いのでしょうか?ごめんなさい、師匠のお声がブレているみたいでして・・・」


政樹「おい、聴こえるか?俺だ、加賀谷だ!今、愛華が極度に挙動不審気味だから気にしなくても電波の入りは好調の様だ!」


美樹「一体何があったのですか?」


政樹「愛華、ちょっと電話変わるぞ?・・・悪いな、この間言った雑誌の件で緊張気味でさ、朝からこの調子なんだよ・・・」


美樹「あぁ、そう言う事だったんですか!実はその件でお電話を・・・」


政樹「もしかして見てくれたのか?」


美樹「はい!3冊買っちゃいました♪すっごくお二人共綺麗で憧れちゃいました♪」


政樹「そうか・・・ありがとな?3冊も買ってくれたんだな。当の本人は見せたくないオーラ満開なんだけど・・・」


美樹「本当は2冊のつもりだったんですが、雑誌のほとんどのページがお二方姉妹のページだったので追加でもう1冊・・・えへへ・・・」


政樹「何だか俺の事じゃないのに俺も嬉しく思うよ。そっちの方も執筆の方は順調?」


美樹「あっ、はい!私の方も新刊が来週発売になります!」


政樹「そうか、それは良かった!まぁ、今日はこんな感じだけど、美樹ちゃんの師匠だもんな・・・また何かあったら遠慮なく連絡くれたら良いよ。今日の事はとりあえず明日には落ち着いていると思うから伝えておくから!ごめんな?ホントに・・・」


美樹「い、いいえ、お気持ちは凄くよく分かります!サイン会もそうでしょうが人前でも緊張しますし、今回は顔も見せちゃう訳ですから人前じゃなくても色々な人から反応されちゃうでしょうし・・・慣れるまで大変でしょうが初めてのこの雑誌は凄く素敵だったので・・・それもお伝え頂けたら嬉しいです!」


政樹「あぁ!ちゃんと伝えておくから。それじゃな?」


美樹「はい、お疲れ様でした」




翌日




どうやら政樹が昨日の美樹ちゃんの電話に応じてくれていたみたいで私は落ち着いた後、政樹から美樹ちゃんの伝言を聞いた。

愛華「そうか・・・何だか悪い事しちゃったな・・・折角連絡くれたのに」


政樹「あの電波の入りが悪い様な喋り方で続けた方が失礼だろ?」


愛華「まぁ、そうだけど・・・」


茜「大丈夫よ。何度かやっている内に本当に慣れるから!」


愛華「お姉ちゃんは自信あるから良いけど、私は・・・」


茜「自信か・・・本当にそうなのかな?」


愛華「え?」


茜「私だって初めてだったのよ?」


愛華「う~・・・」


茜「愛華はもっと自分に自信を持つべきなのかも知れないわね?」


政樹「茜さん・・・」




茜さんの言う通りだと俺は思った。

愛華はいつも一歩引き気味な様に思えていた。

何事に対しても自分は後から・・・常に誰かを優先させている様に見える。

自分がどれだけの能力を秘めていて、どれだけ周りから認められるのか、俺は愛華はプロのモデルとしてやって行ける気がしている。それ程魅力的だし、これは愛華のパートナーとしてではなく、一人の男の目から見て彼女は光っていたり輝いているモノが色々とある様に見えていた。だから今回のモデルの話を貰った時にも俺は率先して受けても良いんじゃないかと思った程だ。だけど、愛華はずっと引いていた。これは謙虚さが齎(もたら)す感情なのだろうか?それとも自分に自信が無いからだろうか?俺も愛華の事に関して言えば後者じゃないかと思っている。地味な事に慣れてしまっているのだろうか。あまり目立つ事に対しては抵抗をいつも見せ続けて来ただけに、誰かから批判されてもそれを受け入れてしまう性格でもある。全てこれを自信に繋げて行けばもっともっと愛華は美しく人々を魅せる事が出来ると考えていた。

芸術などの分野に長けた才能を持っていると常々感じていた。




翌日の学校




穂希「おはよう。私も10冊買ってね・・・」


政樹「10冊!?・・・それはいくらなんでも・・・」


穂希「この10冊が意味する事・・・君は分かるかい?」


政樹「意味する事なんて・・・保存用とか見る様とか布教用とかそう言う類のモノじゃないのか?」


穂希「ふふふ♪確かにそう言う意味にも取れるね。けれど、私は次へ繋げる為の・・・」


政樹「貢献ってやつ?」


穂希「ちょっと違うかな?・・・今回はデビューだね。貴重な最初の1冊。そして次はどの様に変わってくれるのか?そして完全に慣れた時の10冊・・・意味が違っているんだよ」


政樹「確かに、慣れてくれば自分にも自信がついたり周囲もイメージが定着して来るから変わって来る・・・なるほどな。だが10冊の意味は何だ?」


穂希「私は9冊保存用にして、残り1冊を鑑賞用として持っている・・・と言ってくれれば分かるかな?」


政樹「なるほどな!穂希さんらしい理由かもな?」




本当は「なるほど!」なんて思っていなかった。

9冊と言う意味や1冊だけ見る為に取っている理由が明確では無い。

俺がなるほど!と思っていないながらに感じた事は、愛華に対しての愛情の様なモノじゃないかと思う。一般的にどれだけ好きな人が雑誌に載っていたからと言って10冊も同じ雑誌を購入なんてしない。でも彼女の場合、その常識を超越した行動に出ていた。だからこそ、自分の相手への想いは他の誰よりも強いのだと言いたかったのだろう。

だからこそ俺はその答えを聞かないまま納得したと返事を返したのだ。




帰宅後・・・




小波「こんにちは。お邪魔しています!」


愛華「秋月さん?こんにちは。きょうは何かあったんですか?」


小波「え?あ、ごめんなさい。雑誌の件で色々と茜さんとお話していたんです」


愛華「あ、あぁ、そうだったんですか!?雑誌って、あの?・・・」


小波「えぇ、とても素敵に撮られていて、本当の二人の姿を明確に撮影されていた様に思いました♪」


愛華「は、恥ずかしいです・・・」


政樹「発売日なんて愛華、大変だったんですよ!もう朝からガクブルしてて・・・」


愛華「ちょっと、政樹!?それは言わないでよ!」


小波「まぁ、数年程先生を見て来ましたので大体察しがついていました。これも最初の内だけですから♪次へのステップアップも愛華ちゃんなら・・・ね?」


茜「本当にいつも秋月さんにはお世話になりっぱなしで・・・」


小波「いいえ、今回の件に関しては・・・あの子のおかげですよね」




編集部




舞「へっくしゅっ!!・・・何故だろう?風邪でも無さそう、花粉症は持っていない・・・これは誰かの噂だろうか?」


部下「編集長、働き詰めですから少し休まれたら如何ですか?俺たちも出来る所はフォローしますので・・・」




一方、新刊発売日間近の美樹




美樹「(ガクブルガクブル)」


加奈子「ちょっと、美樹?しっかりしなよ?こんなに緊張しているなんて珍しいわね!?もう、あんただって何冊か本出しているでしょ?」


美樹「だだだ、だって・・・ししし、師匠イチオシとか帯に書いてあるししし・・・売れ、売れなかったらわわわ私・・・」


加奈子「師匠がイチオシなら間違いなく売れるでしょう?あんたが緊張しなくても大丈夫だって・・・ってそれはそうと、そのあんたの新刊イチオシしてくれた師匠のモデル雑誌見たけどホント凄い綺麗だよね!?お姉さんと似てるしプロとしてやって行けるんじゃないのかな?」


美樹「でしょでしょ!?ホント惚れ惚れしちゃうよね♡師匠って色々と才能があって羨ましいな♪・・・」


加奈子「あんたって本当に師匠一筋ね!師匠の話になった途端挙動不審なのが戻ってるし・・・」




愛華のクラス




愛華「もう少ししたら美樹ちゃんの新刊が発売されるね!」


政樹「あぁ、愛華がイチオシした作品だよな?」


愛華「そうだよ!前作よりまた一段と表現のメリハリがあって良かったから!」


政樹「美樹ちゃんプレッシャーになっていないか?」


愛華「大丈夫だよ!帯に書いてあるくらいだし、ほとんどの人がこいつ誰だよ?って私の事思ってると思うから!」


夏葉「あらあら!?ご謙遜を・・・愛華さんの作品がどれほど売れ行きが好調か存じ上げていらっしゃいますか?」


愛華「え?・・・それはあまり今まで考えた事が無かったかな?」


智也「昨年の年間ライトノベル全社、全売り上げのベスト5に入っているのを知らなかったのか?」


愛華「(ガクブルガクブル)」


政樹「始まったぞ?・・・どうするんだ?このガクブル愛華ちゃんを?」


夏葉「これはこれで中々・・・ぷちぐるみにしたら愛らしくて素敵ですわ♪よし、商品化させて見せますわ♪」


政樹「おぃおぃ、それは流石に・・・」




どうやら私と政樹の小説が昨年のライトノベル、全社が出した無数に存在している程の作品数がある中で売り上げベスト5にランクしたらしい・・・それはガクブルするよね?

初めて聞いたけど・・・




政樹「って事で、美樹ちゃんの小説が発売になる!イチオシしたここにいる張本人が言うには色々と前作より成長していると言う師匠としての深い一言があった・・・と言う事はだな、俺たちも美樹ちゃんに抜かれない様にしないといけないって事なんじゃないのか?」


愛華「そうだね・・・確かに弟子に追い抜かれる師匠はもう師匠として終盤を迎えてしまっているだろうから・・・」




そしていよいよ美樹ちゃんの新刊発売日がやって来た。

美樹ちゃんは当然の事ながら私と政樹も秋月さんから連絡を受け丸川書店の本部へ呼ばれた。




美樹「し、師匠・・・(ガクブルガクブル)」


愛華「(ガクブルガクブル)」


政樹「最近流行ってるのか?この身震い?」


小波「えぇっと、きょうこちらにお三方をお呼びしたのは・・・」


美樹「(ガクブルガクブル)」


愛華「(ガクブルガクブル)」


小波「えぇっと・・・私も政樹君と被っちゃいますが、それ、流行っているのですか?」


愛華「い、いいえ・・・その・・・緊張し過ぎちゃって私たち・・・」


美樹「わ、わ、わたっ、わたっ、私・・・どうしたら・・・!?」


小波「流石にこんな所に呼ばれちゃったら何か大きい事でもあったのかと思われてしまっても仕方がないですね。ですがご安心下さい。特に不評だとかそう言った消極的な意味でお呼びした訳じゃないんです。きょうはまなせ先生の新刊の発売日、そしてお二方にこちらへお招きしたのは、愛瀬先生もイチオシであるまなせ先生の新刊・・・」


政樹「えぇっと・・・それが理由なですか?だったら俺はどうして呼ばれたんですか?」


小波「ふふ♪そうですね。理由・・・と言うのは・・・」




「この後、秋月 小波の口から驚くべきセリフが出て来るのであった!!」




小波「えぇ~っと~、確かに驚くべきセリフになってしまうかも知れませんね・・・政樹君にとっても・・・」


政樹「え!?マジだったんですか!?そこまで推測していなかったです!」


愛華「それで、本題に入ってもらっても良いでしょうか?」


小波「あぁ、ごめんなさい!私ったら・・・実は、うちの部でもまなせ先生の新刊が好調なら一度考えてみても良いのじゃないかと言う話がありまして・・・」


美樹「い、い、一体何の事ですか!?もう、さっきから私、もどかしくて・・・」


小波「ごめんなさい。実は、ここにいらっしゃるお三方で新しい作品を手掛けてみると言う案件なのですが・・・」


愛華「あぁ、コラボレーションですか?・・・なるほど・・・ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~!?」


政樹「面白そうじゃん!師弟関係で新しい小説を出すって話ですよね!?」


小波「えぇ、そうなのですが、ただ、皆さんまだ学生と言う事もありますので、勿論学業の合間を縫ってご自身の長編を手掛けて頂いている状態ですので、無理強いが出来ません。ですのでこの案件はお三方が納得の出来る所まで進めばと言うお話になるのですが・・・」


美樹「し、ししし、しししししし師匠とととと・・・ここここコラボボボボボボ!!」


政樹「美樹ちゃん?そろそろその下りは止めようか?」


美樹「はい・・・すみません、あまりにも夢を見ている様な展開だったものでつい・・・」


小波「つい・・・で出て来るモノなのね?・・・コホンッ!それはさておき、この話はまだ確定と言う訳では無いから、あなた達が本当に出来るのか、やりたいのか、色々と思う所があるはずなので」




こうして、私たち3人がタッグを組んで1つの作品を手掛けると言う案件が持ち掛けられた。師弟で作品を創り上げる事なんてそう滅多に出来る事じゃないし、政樹も挿絵をやってくれるならやってみても良いかなと私は思った。




美樹「師匠と一緒に・・・(ゴクリ!)」


愛華「私たちまだ学生だし、連載も持ってるから確かに少しハードになるかも知れないね。でも、こんなチャンスって本当に無いんじゃないかなって思うんだ・・・」


美樹「で、ですが・・・私なんかと師匠がコラボレーションだなんて・・・おこがましいです・・・」


政樹「弟子はいつか師を越える・・・これは幼い雛が巣立つ時を表している。時期は各々だろうけど、チャンスはチャンスじゃないかと思うんだよ。俺はイラストだから小説の事は分からない。でも、師弟の関係や師弟同士で何か出来る事って考えると本当に少ないんじゃないかって思うんだ。師匠は弟子を育てる為に試練を与える。だが師匠が共に動いている訳じゃないだろ?師匠は親みたいなもので弟子を子供の様に見守るだけだ。教えて見守る様な感じでさ?だから師匠と弟子が同じ目標に向かって共に行動をするって相当貴重な経験じゃないかな?」


愛華「政樹・・・」


美樹「政樹先輩・・・わ、私、やってみたいです!」


愛華「美樹ちゃん?・・・でも、時間が・・・」


美樹「私、憧れてた愛瀬瑠奈先生と新しい作品を一緒に手掛けてみたいです!時間は何とかします。ただ、愛瀬先生、そして香波愛華先輩が・・・」




愛瀬先生、香波愛華先輩・・・きっと美樹ちゃんは連載を持っている私と学業・・・もう直ぐ進路に向けた活動・・・2つの私の事を考えてくれているのだろうな。




愛華「やろう!美樹ちゃんとならきっと素敵な作品が手掛けられると思うから!」


美樹「師匠・・・はいっ!私、頑張りますから!師匠も・・・無理だけはしないで下さいね?」




こうして互いの確認をしながら強い意志を持つ2人の目は俺も圧倒される様な何かがあった。

俺も、この2人の活躍を支えられる様に頑張らないといけないな!




翌日




小波「受けて下さるのですね?本当に宜しいのでしょうか?」


愛華「はい、昨日あの後3人で話し合いました。この様な大きな機会を頂けた事自体とても私たちにとっては光栄な事だと思っています」


美樹「最初は師匠とだなんてとんでもない事だって思っていましたが、2人が色々と私の事も考えて下さったので改めて考えてみてやっぱりこの様な大チャンスを無碍になんて出来ないって思ったんです」


政樹「2人は本気ですよ。そして、俺もこの2人に心を動かされました。出来る事を最大限にして俺たち頑張ります。だから、この話を!」


小波「成長されたと言う事ですね。前向きに取り組もうと自らを奮い立たせて頂けた・・・とても素敵な事だと思います。私も最大限にサポートさせて頂きます。どうか、宜しくお願い致します」




こうして私たちの新たな一歩が確実なモノへと変化した。

この日から私たち3人は学業は勿論の事、自分の作品も今まで通りペースを崩す事なく続け、そして空けた時間に3人で作戦会議を開いた。




愛華「ある2人の従姉妹同士が恋をして変わっていくお話・・・」


美樹「素敵なお話ですね。私も意欲が沸いて来る気がします」


政樹「これはまた頭に過る何かを感じたけどな?」


愛華「ある小説家の女の子が幼馴染の男の子に恋をして苦難を乗り越えてラブラブカップルになるお話・・・」


美樹「凄く私も好みのお話です!」


政樹「えぇっと・・・何だかあからさまだな?」


愛華「ある駆け出しの小説家の女の子の同級生の女の子が自分より先にデビューしていて自分の処女作を応援してくれて遡上を隠しながらその駆け出しの作家の少女に近付いていくお話・・・」


政樹「ってどれも身近に起きた事実じゃないか!」


愛華「政樹はどれが良い?」


政樹「いや、事実を物語に作り変えるのか?まぁ、悪い話じゃないだろうが・・・」


美樹「全部入れてみるのは如何でしょうか?」


愛華「あっ!なるほど・・・流石美樹ちゃん♪じゃぁ、それで決定しようか?」


美樹「はい♪宜しくお願いします、師匠♪」


政樹「まったく・・・ま、書くのは2人だけどな。じゃぁ、俺は出て来る皆を改めて実際にどう言う感じか見ながら色々と描いてみる事にするよ」




結局の所、俺たちが歩んで来た道のりを小説としての題材として採り入れる事になった。

でも、そう言う身近な出来事を書いた方がやはりリアリティーがあって良いのだろうか?

それもそれで読んでみたい気はするけど・・・




数週間が経過




茜「愛華?」


愛華「お姉ちゃん?どうかしたの?」


茜「ここの所忙しそうだけど大丈夫?」


愛華「え、あっ、うん♪おかげさまでやり甲斐を満喫しているよ?」


茜「実は、次のモデルの仕事が入っているんだけど、今やっている美樹ちゃんとのお仕事が終わってからにしようか?」


愛華「あぁ・・・そう言う事か・・・ううん!大丈夫だよ?そんなにかからないよね?」


茜「えぇ、1日で撮影をしてしまうから大丈夫だろうとは思うけど・・・別に強制はしないって。舞も今の愛華の状況を察してくれているから」


愛華「うん、それは嬉しいかな・・・でも私の事なら大丈夫だから、それでいつかな?」


茜「次の日曜日を予定しているみたい。返事は愛華次第でって事で承諾してもらっているわ」


愛華「じゃぁ、次の日曜日だね!折角お姉ちゃんも輝ける時が来たんだから私も応援したいし♪」


茜「愛華・・・本当に無理だけはしないでね?一応、次の日曜日にお願いしておくから」




そして撮影の日曜日がやって来た・・・




舞「すまない。多忙の中無理を言ってしまったね・・・」


愛華「いいえ、私がやりたいって言ったので気になさらないで下さい!」


舞「本当に君はお姉ちゃんに似て綺麗な目をしている。芯が強いのに何処か脆く、そして真っ直ぐ・・・だ」


愛華「舞さん?・・・」


舞「すまない、それじゃぁ、出来る限り早く終わらせる事にしよう。今回の撮影が終わればしばらく2人にはモデルの仕事は休息期間入るから新作が出て落ち着いた頃になると思うよ」


愛華「そうですか・・・頑張ります!」




後から聞いた話だと舞さんが気を遣ってくれて私が美樹ちゃんとのコラボ作品を出した後、少し落ち着く時間が出来た頃に調整してくれていた。




学校にて・・・




夏葉「愛華さん?ここの所顔色が優れませんが、ご健康の程は如何ですか?」


愛華「え?あ、あぁ、ごめんね?大丈夫だよ!私、もっともっと頑張らなきゃ!!」


政樹「愛華・・・」


智也「あんまり無理するなよ?夏葉が言った通り顔色がここの所良く無いぞ?少し休んでも罰なんて当たらないだろ?」


愛華「うん。ありがと・・・今、凄く私楽しくて充実していて、それに・・・美樹ちゃんとのお仕事だから・・・」




こうしてしばらく時間が過ぎ、新作の方もお互いに執筆しながらそれを合わせる作業などを経由して作品も半分辺りの所まで完成した所で改めて3人で話し合いをする事になった。




愛華「大分進んだから後は、最近起きた私たちの出来事を順番に書き出しながら調整して行こうかなって思ってるんだけど・・・」


美樹「・・・・・・先輩、このお話無かった事にしませんか?」


政樹「美樹ちゃん!?」


愛華「・・・・・どう言う事?・・・かな?」


美樹「何か小説を2人で書いてイラストを1人の方が付くって無理ありませんか?」


愛華「そんな事ないよ!だってここまで完成したじゃない?どうして?どうして突然そんな事言うのかな?」


美樹「先輩は、考え方が甘いと思います!」


愛華「美樹ちゃん?・・・何かあったの?何かあったなら遠慮せずに言って?」


美樹「何でもかんでも「はい、やります」って言うのは簡単です。ですが、本当にそれがきちんとしたモノとして完成出来るんですか?私たち、もうアマチュアじゃないんですよ?プロなんですよ?出来る出来ない以前に受けた仕事は確実にこなさなければいけないんです!夢見てるだけじゃダメなんです!」


愛華「どうして?・・・どうしてそんな事言うの?・・・私、凄く頑張ってるよ?美樹ちゃんとこうして一緒にお仕事出来るなんて凄く素敵な事なんだって思って、しなきゃいけない事もちゃんとこなしているよ?なのに、どうしてそんな酷い事言うの?」


美樹「だから考え方が甘いって言ってるんですよ!私も学業や連載もあるのでこのお仕事は凍結させて頂きます。もし誰か候補者がいればその方とやって下さい。それでは失礼します」




美樹ちゃんが何故か冷たい視線で私を見つめながら冷たい言葉を放って私の家から出て行ってしまった。そして、何も言わずに政樹は私と一緒に座っていた。

何時間も、何十時間にも思えたその無言の状態のまま私と政樹は部屋の中でただひたすら時間が流れていく事を感じながら座ったままだった。















第十二巻 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る