ドキドキさんの新商品

『ふっふっふ……』


 ドキドキさんは笑っていました。新製品が完成しそうだったからです。

 フラスコに入った液体は妖しく紫色の光を放っています。これを飲んだ生き物は分裂します。分裂した個体は本体の言うことをよく聞き、なんでもします。きっととても便利でしょう。

 ドキドキさんはいろんなものを作るのが好きです。作った以上、誰かに使ってほしいのです。だから無料でとても便利な道具を配っているのです。それを使った生き物が笑ってるととても良いと思います。泣いたり怒ったりしててもとても良いと思います。自分の作った道具が世界に何かしらの結果を残したことは、とても良いことだと思います。

 だから、それを邪魔する天からの使いのことは大嫌いです。神様のことはもっと嫌いです。

 でもそれ以外のことは大好きです。ドキドキさんの道具を使ってくれる生き物のことは特に好きです。

『あとは、これとこれを入れて〜』

 仕上げは最終段階に及びました。あとは粗熱がとれるのを待って別の容器に移しましょう。

『サア!!!!!! どんな梱包にしちゃおっかな!!!!!!!!!!』

 ドキドキさんが張り切って棚から箱やリボンを選んでいると、カタリ、と小さな音がしました。ドキドキさんは振り返ります。

『美味っ!』

『…………………………………………』

 ロシアンバラムツ料理店の店主が新商品をごくごくと飲んでいました。当然薬は効果を発揮して、店主がズルリともう一人増えました。

『ややっ! 奇っ怪!!! しかしこれでバラムツの捕獲が捗』

 店主が言い切る前に、ドキドキさんは無言で襲いかかりました。会話しても無駄な相手だからです。



*****



『あー……もー……』

 なんとか分裂したほうは倒したものの、本体には逃げられてしまいました。

『作り直しだよぉ! もぅ!!!』

 ドキドキさんは肉片になった分裂体を蹴り上げます。


 ドキドキさんはものを作るのが大好きです。

 だから、それを邪魔する天からの使いのことは大嫌いです。神様のことはもっと嫌いです。

 でもそれ以外のことは大好きです。ドキドキさんの道具を使ってくれる生き物のことは特に好きです。

 でも、ロシアンバラムツ料理店の店主は嫌いです。道具を使うけど、嫌いです。さっさと天の使いに連れて行かれないかなあと毎日願っていますが、なかなか願いは叶いません。

 今日も店主はどこかでバラムツ料理を誰かに食べさせたり、ドキドキさんにちょっかいを出しています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る