強盗と物語

 さて、とある泥棒は夜に紛れて一軒の家に盗みに入っていた。


 二階建ての古そうな一軒家。こじんまりとしてたいした資産もなさそうな家だったが、それ故にガードもゆるく簡単に侵入できた。一階をまわりそして二階の部屋まで来たが、金目の物はなさそうで外れかと舌打ちを打つと、それに反応するかのように部屋の奥で何かが動いた。

「ん〜…………?」

 蠢くベッド。眠そうな声。どうやら不在だと思っていたこの家の住人は明かりもつけずに眠りこけていたようだ。事前の調査ではこの時間、夜の6時にはでかけているはずだったが、きっと予定変更でもしたのだろう。

「ふぁ……何時……?」

 布団から出ずに手だけでサイドボードの時計を探そうとしている。そんな住人を見つめながら泥棒は考えた。

 殺すか、音も立てずに逃げるか。

 この泥棒は強盗殺人の経験がある。見つからなかったら盗む。仮に見つかったら殺す。そんな雑とも言えるやり方を続けていたが、縁もゆかりもない土地を転々としてきたから今まで捕まらずにこれたのだ。

 もし住人が完全に寝ていたらわざわざ殺さずにさっさと退散している。仮に見つかったらその場で殺す。さて今は住人は起きているが泥棒のことには気づいていないという半端な状況。

 ふと、いつかどこかで読んだ怪談のことを思い出した。とある家の住人は夜に目が覚め人がいることに気づいた。それを泊まっていた友人だと思った住人は明かりもつけずににまた眠った。朝になり目覚めると部屋には友人の死体と、『明かりをつけなくて良かったな』というメッセージがあった。そう、住人が見たのは友人ではなく友を殺したあとの侵入者だったのだ。そういうオチの話だ。

 よし、それにしよう。この住人がこのまま二度寝するならそのまま。そうでなく起きるなら、殺す。

「あ〜……もう夜じゃん…………」

 ようやく掴めたデジタル時計を布団に引きずり込んで時間を見たらしい住人の足が布団から出てきた。

 ナイフを、静かに鞄から取り出した。

 ああ、人生というものは物語のようにうまくいかないようだ。



*****


「つまり、アレだ」

 その事件の顛末を、のちに住人、もとい不動日陰は語る。

「ナイフ程度で俺に勝てると思ったのが間違いというな」

「普通は勝てないんだけど」

「なんで無傷で勝ってんだよ」

「せめて負傷くらいしろよ」

「時計で殴って勝つってなんだよ」

「は!? 何お前ら俺に死ねってか!?」

 友達の反応にキレ気味の不動を、長年の友人である御山がどうどうと落ち着かせる。

 そんな食堂の隅っこに置いてあるテレビでは1都1府5県での強盗殺人を行っていた例の泥棒が検挙される映像が流れていた。

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