女の彫像
それはそれは高価な宝石だと言う。
目玉くらいの大きさで億を軽く超えるという非常に希少なソレは、今はとある資産家が所有していた。
「汚い手段で奪おうとする人もいますが、絶対に盗むことはできませんよ」
資産家はそう微笑んでいる。
さてとある泥棒たちは時間をかけて資産家がソレをどこに隠しているのか調べ上げた。金庫でもなんでもなく、自宅の美術品の中にしまい込んであるという。
「部屋に飾っている女の彫像の目の部分に入れてるらしい。義眼みたいにな」
「金持ちの考えることはわかんねえな」
自宅と言っても巨大な屋敷。監視カメラの位置や死角、警備員の巡回、センサーの種類等を徹底的に調べ上げ、ようやく特定の日に特定の手順で動けば侵入可能という結論に至った。綿密に計画を練り上げ、当日は難なく資産家の自室にたどり着いた。部屋の中から更に扉一つ挟んだ小部屋には高価そうな調度品といっしょにゆるやかなウェーブを描く髪の女の彫像がある。
「急げ」
極力音を立てないように迅速に彫像の瞼を砕こうとする。
「おい……瞼だけ粘土だぞ」
「前に誰かに壊されたんだろ」
修理しなくていいのかよ、と思わずツッコミを入れつつも、瞼に張り付いた粘土を取り去った。
*****
「……おや」
資産家が帰宅して自室へ入ると、奥の小部屋の扉が開いていた。
「また誰かが入ったのかな」
そう呟きながら、大きめの鏡を手にとって、それを盾のように突き出して小部屋に入る。
部屋には、石の彫像がごろごろと転がっていた。恐怖に駆られて逃げ出しそうな体勢で、大人サイズの石の彫像が五体ばかり。当然朝にはなかったものだ。
資産家は動揺することなく鏡の盾を突き出しながら、床に転がっていた粘土を手にとって元から所有していた女の彫像の瞼の部分であろう場所に手探りで貼り付けた。
「やれやれ」
ようやく鏡の盾を下ろす。
「悪いことはするものじゃないぞ」
今はもう遅い忠告を呟きながら、執事に電話するために携帯を取り出した。
女の彫像の足元には土台があり、メドゥーサと刻まれている。
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