お化けを見た

 何が起ころうと結局時は進み、未来は現実となって、やがて過去となる。


 就職の話である。私は人とのコミュニケーションが苦手で、霊感により視界すら他人と異なり、もしかしたら死生観ですら他の人とは大きな溝があるかもしれない。

 だから、人と関わらないほうがいい。でも人と関わらなければ生きていけないので、なるべく自室で籠もってできるような仕事に就くよう努力する。それが私の今の目標。閉じた人生ではあると思うが、それが私の最善だ。

『ほんとぅに?』

 道を歩くとお化けが囁いてくる。

『ほんとぅに? ほんとぅにそれでいぃ?』

 振り向きもしない。人の心につけいるお化けに、耳を貸してはいけない。

『それはぁ、っらくなぃ? みぃんなは我慢してなぃのに、ぁななななたは我慢するのぉ?』

 無視。

『それょりもぉ、もっといぃのぁるよぉ?』

 無視。

『ほんとぉ、ほんと、ほんとぉにいいから』

 無視。

 だが、ばっと視界が暗くなってお化けと目が合った。

『みぃんなも、ぁなたと同じ霊感に目覚めたらぃい?だょ』



*****


 三島は帰ってこねえし暇だな、と携帯をいじっていると、速報が目に入った。

「事故?」

 仙台市で事故。怪我人多数。


 "現場は錯乱した人々で混乱しており、皆口々に……"


「お化けを見た、と」

 ふぅん、と特に気にせず、速報を消した。

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