腕と路地
昔、ここの路地を通ると白くて長い腕のお化けに服を掴まれるという噂があった。
不動日陰は今そこにいる。特に理由はなく、強いて言えばたまたま近くを通っていたときにそれを思い出して、更に暇だったからだ。
白い腕のお化けは服を掴むと思いっきり引っ張ってきて引きずるという。どこに連れて行かれるというわけではなく、しばらく引きずったら終わり。
「ふーん」
本当にいるのかな、そんなのという気持ちで路地に入る。古いアパートに挟まれたそこは日に当たらないせいか、苔がブロック塀の一部を覆っていた。
ひゅう
風が吹いたような……そして、目の端を何かが掠めたような。そんな気がして足を止める。
ひゅう、また何かが動いたような気がしたあと、服の後ろをなにかに掴まれた。
「あ゛ぁ〜?」
振り返ると、どこからか白い腕が伸びている。ろくろ首ならぬろくろ腕というべきか、とにかく長い。しかしその長くて細い腕では90キロの恵まれた体格の男を引きずることはできないようで、不動の足はいまだに地についたままだ。
不動はその白い腕を引き剥がして、逆に掴む。そしてなんの躊躇いもなく、その細い腕の細い指を、摘んだ。
ぽきっ
枯れ木を折ったような感覚。細い指に、あっという間に関節が一つ増える。腕が震えるが、それで離れられるほど握力は弱くなかった。
ぽきっ ぽきっ ぽきっ
キャンプの焚き火で長い枯れ木を折るように、躊躇いなく丁寧に、一つずつ折っていく。その行為に特に理由はなく、強いて言えばたまたま近くにあったからだ。
「カルシウム足りねえじゃねえの?」
ひとりごちながら、また一つ。
ぽきっ ぽきっ ぽきっ
「あー……」
そしてふっ、と白い腕は消えていった。あとに残るのは暗い路地と、男が一人。
「つまんね」
暇だなぁ、と思いながらあくびを一つして、明るい方へと歩を進めた。
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