ミニチュア

 ドキドキさんの〜〜〜〜ハイパープリティミニチュアハウス!!!!!!!!!


 ……それはそういうモノとして作られて、頒布された。高さ20センチの精巧なミニチュアハウスで、屋根の四方の壁のうちニ方がなく、ハウスというより部屋を一つ切り取ってミニチュアにしたようなものだ。

 それは一定の手順を踏むと、人間でもなんでもその部屋に入れるくらい小さくなり、それで遊ぶことができる。小さくなると隅っこに設置されていた飾りでしかない階段や扉を使用することができ、あるはずがない2階や地下室、キッチンにも行けるのだ。

 手入れせずともいつもピカピカ、お洒落なきれいなお家。ただし使えるのは1日3時間だけ。それ以上滞在すると小さいまま戻れなくなるし、家からも出られなくなるから気をつけてね、そういう商品。

 最初の持ち主である老婆はきちんと説明書を読み、手順を守り、休日に2時間だけ、趣味の裁縫をしたいときに使っていた。普段住んでいる家が狭くて趣味のスペースを広く取ることができなかったからだ。

 そして、最初の持ち主は寿命をまっとうして、老衰で亡くなった。遺された何も知らない夫である老爺は、遺品整理の際にただただ精巧な作りのミニチュアに感心し、処分するのも勿体無いがこういうのに疎い自分が持っていても仕方ないと考えた。

「どうしようかこれ。どこかに売れないか」

「あら、母さんったらこんなもの持ってたの」

 娘に渡して売却してもらうことにした。二人とも説明書の存在を知る由もないので、ミニチュアだけが渡された。

「きれいだけどどうするんだこれ。うちの子はこういうの好きじゃないだろう」

 娘の夫は尋ねた。ここの夫婦の子供はスポーツに邁進する息子だけである。

「メルカリで売ろうかなって」

「へえ、いいんじゃないか」

 こうして、ドキドキさん製造のハイパープリティミニチュアハウスはただのミニチュアの部屋としてメルカリに出品された。

 説明書はない。そんなものあるとも知らない。

 

 ある種の爆弾のような不思議なお家は、今日もネットで何も知らない人に販売されている。

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