悪魔と人間

 ある日、悪魔が現れた。


 近くにいた男はびっくりして尻もちをついた。

「あ、悪魔だ!」

『その通り』

 悪魔は頷いた。角があり、肌は暗い紫色で、尻尾も生えている絵に描いたような悪魔だった。

『人間、お前、私を騙してみろ』

「なぜ?」

『人間は悪魔をよく騙すと聞いた。人間の世界で活動する前にお前で練習だ。一時間以内に俺を騙せたらこの宝石をやろう』

 悪魔が握っていた手を開くと、キラキラとした宝石がいくつもあった。

「お前を騙せたらこの宝石を貰えるのか?」

『そうだ。悪魔は約束を破らない』

「なぜ俺なんだ?」

『たまたま近くにいた人間だからだ。他に意図はない』

「そうかなるほど」

 男はひょいと悪魔の手のひらから宝石をとりあげた。

「ではこの宝石をいただこう」

『俺を騙せたら、の話だ。言っておくが悪魔の力で宝石なんて簡単に取り返せるんだぞ』

「だから、もう騙したのさ」

 どろんと男の足元から煙がたちのぼる。煙が消え去ったあとには悪魔と同じように、角があり、肌は暗い紫色で、尻尾も生えている生き物がいた。

『…………』

『俺は人間ではなく悪魔だとも。これではまだ人間の世界で活動はできないな』

 ケラケラと笑う悪魔の手の中で、宝石は相変わらずキラキラと輝いていた。

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