お化け屋敷

 とあるテーマパーク内に、古民家を改装したお化け屋敷がある。


 建築してから長い年月を経た建物の中に、昭和末期から平成初期ぐらいを思い出させる家具や内装。レトロな建物と生活感溢れる中身が人の気配を思い起こさせて生々しく、それが逆に怖いと話題になっていた。テーマパークの建設予定地に元々建っていた家を買い取って、ある程度増改築して作ったようだ。

 そんな場所で、バイトをしている。バイトと言っても「うわー!」とか言いながら飛び出す役目ではなく、モニターで客を監視して所定のポイントに足を踏み入れたら規定のとおりにスイッチを押して仕掛けを動かす、そんな役割だ。

 モニターの中では突然電源が入って不気味な映像が流れ出したテレビに驚いた客がきゃあきゃあと声を上げながら足早にその場を去っていこうとして、壁にかかっていた絵画が落ちてまた更に声が上がる。

「またか……」

 呟く。テレビは自分が操作しているが、絵画に仕掛けなんかない。

 この民家風お化け屋敷には本物の幽霊が出るというのはスタッフもお客にもよく知られていることだ。配置した覚えのない仕掛けに驚いた客の体験談は山程あり、それがなおさら新しい客を呼び、また新たな体験談が生まれる。そしてそのお化け屋敷は非常に人気なアトラクションとなっている。

 なんせ、元は昔普通に誰かが暮らしていた家なのだ。人間の想像力が働いてネット上ではありとあらゆる妄想がこの家にまつわる噂として語られている。人が死んでいたとか、死体が埋まっているとか。

 スタッフに知らされている事実は、最後にこの家に暮らしていた老人も倒れたのはこの家だが息を引き取ったのは病院であるということだ。無論死体なんて埋まっていない。終活のために家の買い手を探していた老人とテーマパークの運営会社との交渉の末に話がつき金銭のやり取りが行われたあとで老人が亡くなったので、お化け屋敷として使われていることに無念なわけでもないだろう。

 まったく、どんなお化けがここにいるのだろう?



*****



『えいやっ』

 そんな間の抜けた声は人間には聞こえないだろう。客のスカートの裾を掴むと絹を裂くような悲鳴が上がった。今日も順調だ。

『うーん今日も順調』

 自分は付喪神。長年使われた家具が命を得るアレだ。もっとも自分は家具ではなく、家が付喪神になったのだが。

 ようやく命を得た矢先に、家主である老人が自分を処分することを検討していたときは悲しかったが、どうにか第二の生を得た。家ではなく、お化け屋敷としてがんばっていこうと思う。

「あなたには期待していますよ」

 なんかテーマパークの偉い人もそう言っていたし。なんで付喪神の自分と普通に会話できるのかよくわからないけど結果オーライだ。

 あ、足音。

 さあ、また頑張って人を驚かそう。

 

 

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