不可視の獣(中編2)
「……どこが嫌いか聞こうか。参考までに」
刀から手を離さないまま問う。目の前にいる"心臓頭"ははるか昔に、神の手からするりと抜けて地上に降りた玩具だ。
『死んだほうがいいとか簡単に言っちゃうところさ』
心臓頭は近くにあったベンチに座る。
『せっかく授かった命になんてことだい。ドキドキさんはプンプンだよ』
「黙れ。価値観の違いだ。で、文句を言いにきただけか? いつもは殴りかかってくるというのに。
だいたい貴様、本体じゃないな。遠隔操作の人形か。どうした、怖じ気づいたか」
『さっきバラムツくんの襲撃にあったから本体はオツカレさんだよ』
「………………そうか」
やかましい魚頭の顔を思い出してゲンナリする。たしかにあれとやりあったあとにもう一戦はやりたくない。
『まあバラムツくんの話は置いておいてぇ、君らの死んで天上に行くことこそが至上と考えるところは気に食わないんだよねぇ』
「なぜだ」
心臓頭は綿の塊に見える頭部を軽くゆらゆらと揺らす。多分、笑っているのだ。
『地上にしかない楽しみだってあるさ』
*****
「えーと…………」
とある夜。暗い空のせいで人とお化けの区別がしにくくなる時間帯。私は町内の掲示板に貼ってあった貼り紙を見ていた。
先日、山から猪らしき大きさの獣が降りてきたというニュースがあった。それは食事をしたり畑を荒らしたりしながら、こちらのほうに近づいてきているらしい。見かけた場合はすぐに逃げて通報を、と貼り紙に記されている。
ただその獣は、痕跡はあるけれど実際の目撃例はないという。
「不可視か……」
前に、白い人が言っていた獣。
「……帰ろう」
頼まれたとはいえ、遭遇したくはない。私は視えるだけで戦えるわけじゃないのだ。猪なんて相手にできるわけがない。
ざりっ……………
「あー……………」
その決意は、遅すぎたかもしれない。
道路の奥、暗がりから、猪くらいの大きさの何かを引き摺っている異形が近づいてきていた。
(猪……?)
大きさはそのくらいだろうがわ猪というよりは、巨大なダンゴムシに見えた。毛はなく、殻のようなもので背が覆われており、その殻はよく見ればペットボトルや、衣服、宝石や、お金や、コンクリートの欠片が密集し無理矢理ぎゅっと殻の形にひとまとまりになっている。何本もある足は人の手であったり、足であったり、犬猫の足であったり、車輪であったり、よくわからない金属の突起であったりする。
(なにこれ……)
そして、近くを通る人はそれをまるで無視していた。大人も子供も、振り返ることすらない。
(早く連絡しよ……)
そう思って電話をとりだそうとすると、"獣"はこちらのほうを向いた。
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