不可視の獣(中編)

 "霊感少女"に協力は仰いだ。


(あとはこちらでも捜索を続け、連絡があった際にはすぐに駆けつけられるように……)

 頭の中でいろいろと考えていると、仲間の白猫が前足でこちらの足を叩いている。

「なんだ」

『わざわざヒトに協力を仰ぐなんて珍しい。あの娘はそんなに役に立つので?』

「"なんでも視える"娘だ。獣が不可視になったところであの目ならとらえるだろう。理論上は神ですら視認可能だ。……うらやましいことだ」

 天におわすあの方の姿なんて、配下である自分たちですらおぼろげにしか視えないというのに。

『なんと! そんなに特別なお方なのですか!』

「ああ、特別だ。特別だとも。その視える力に由来はなく、本当にただ偶然、極小の可能性の末の"それ"だ」

 多分世界にたった一人"もしもそんな存在がいたとしたら"と天の噂好きな女子供の間で語られるもの。なぜか神はそういった存在をif/1(イフぶんのいち)と言っていたので、自分もそれに倣っている。

『ははあ、おとぎ話の存在ではなかったと』『女たちが語っているのを聞いたことがありまする』『しかしそれは、異境の自称・大魔導士のことを指すのでは?』『あれはまた別だろう』

 動物たちがぺちゃくちゃとしゃべる。仕事には真面目だがどうにもおしゃべりでしょうがない。

『しかし、気の毒ですな』

「ん?」

『そんなによくよく視えるなら、この世界では生き辛いでしょうに』

「だろうな」

 あの娘が語るお化けも妖精も、実際に"いる"のにほとんどのヒトに視えず信じもしない。

『だったら、早く天に返してあげればよろしいかと』

「まあ、そうなんだろうが……」

 健康体である娘を天に返すとは、それは殺すということである。天が授けた命を、早いうちに戻すこともあるまい。

『嫌だな!!!!!!!!!』

 雑談を、やたらめったら大きな声が切り裂いた。何度も聞いたことがある不快な声。少し離れた場所に、案の定そいつはいる。

『ドキドキさんさー!!!!! 君らのそういうところ嫌いだな!!!!!!!!!』

「………………………………」

 無言で、刀に手をかけた。


 

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