お化けの絵

 不思議な絵を描く画家がいたという。


 彼の絵はお化けが人間といっしょに日常生活を送っているものばかり。お化けが八百屋の野菜のなかに紛れていたり、工事現場の片隅で真似っこで角材をかついでいたり、学校の教室の空いた席に座って本を読んでいたり。

 お化けはどれもこれもどこか人間とは違う恐ろしい姿をしていたけれど、彼が描く絵のお化けはどこか愛嬌があって人気があった。

 彼は延々とそういう絵を描き続け、二十年前に老衰で亡くなった。彼の絵はネットが発達した今「おもしろい画風の作家がいた」として再び話題にのぼり、若い人気を獲得し、地元である仙台の美術館で展覧会が開かれた。

 だから、気になって見にきた。少し混んでいたが、充実した時間を過ごすことができたと思うし、気になっていたことも確かめることができた。

 あの作家は、"同じ"だ。私と同じ"霊感"がある人であり、それを描き続けていた人。……もっとも、描いているのは"まだ人に見せれるレベルのお化け"だったが。

 ……私は、お化けが視えるし、そればっかり見えるせいで日常生活には支障がある。だから、できることなら、極力部屋から出ずに暮らしたい。社会から悪目立ちすることなく、暮らしたい。

 絵なら、できる。

「……がんばろ」

 そう呟いて、美術館をあとにした。

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