「三島は絶対俺のこと好きだよね」

「三島は絶対俺のこと好きだよね」


 ニッ、と笑う不動くん。今日はずいぶん機嫌が良さそうだ。

「……なんでそう思うのかな」

「え~、警戒心ゼロじゃん」

 一応男の部屋だぜここ? と、とんとんと指で床をつつく。

「……友達だし」

「素直になれよぉ。そのほうが楽だぞぉ」

「それだと何かの犯人みたいなんだけど」

「俺の心を奪ったんだよなあ」

「ルパンでも見た?」

「いや、最近見たのはシャークネードだわ」

 味付けはB級だけど本当に神映画だから!!! とキラキラした瞳で"布教"を始める。なんだサメを巻き上げた台風って。

「2見ようと思うんだけど、いっしょに見てくれよ面白いから」

「2から見てわかるのかな……」

「絶対問題ないタイプの作品だから見て」


 音がした。


 それは通知音だ。不動くんのスマホの画面の上部に、アイコンが一つ増えた。

「ん? ああ……」

 慣れた手付きでスマホを操作し、アプリを開く。

「ユミじゃん」

 一言、そう呟く。

「誰」

「ん~、大学の友達」

「もうできたの?」

「もう5月だぜ。テキトーにしゃべってたらなんかできてた」

 ……私にはまだ誰一人としていないけれど。"陽"サイドの人間はすごいな。私には無理だ。

「で、どんな娘」

「気になる?」

 ウフフ、と楽しそうに笑う。

「やっぱ三島俺のこと好きだって~」

「へえ」

「クールなんだからあ」

 


*****


 恋とは美しいものだと思っていた。

 私にとってはそれは少女漫画や映画でしか触れられないもので、好きな人の手に触れるだけでドキドキ、会話するときも緊張する、そういったものじゃなかったのか。


「あ、三島じゃん」

「……………」

「誰? 知り合い?」

 ……大学の学食で女連れの不動くんと会った。

「俺が一番かわいいと思ってる子」

「なにそれ」

「高校からのお友達……だろ?」

「まあ……そうだね」

 ウインクをされた。

「ふぅん」

 一瞬だが、頭から爪先まで品定めされた。見た目には気を遣っているのでその辺にぬかりはない。

「あ、そろそろ行かないとあいつら遅いって言うよ」

「そうだな。じゃあな~」

「……じゃあね」

 二人して学食に入っていく。じゃあね、なんて言ったが私だって元々学食に行く予定だったのだ。予定を変更する理由はないので、そのまま中へと入っていく。

 クリアボードで仕切られたテーブルの一つに着席すると、遠くに不動くんと、他多数の男女の一団がいる。ご時世のせいか静かに食事をしているようだ。

 誰もかれも、私にとっては知らない人だ。不動くんは着実に人間関係を広げているというのに私にはなんにもない。家族とペットと、不動くんぐらいだ。……あとは、お化けとか、妖精さんとか。

「日陰はさぁ」

 食事を終えて皿を返すときに、会話が聞こえた。

「彼女とかいないの?」

「いねえけど」

「じゃあ、あたしがなってあげようか」

「……………………………………………………………………………」

 冗談なのか本気なのか、計りかねる高い声がする。

「いらねぇ」

 いつもの低い声が聞こえてきて、私は皿を返却しその場を去った。



「原点たる初代シャークネード観ようぜ」

「………………あのノリ?」

「ああ……あのノリだ……感動したぜこんな面白い映画があるなんてさあ」

 家に帰ってからシャークネードに誘われた。2は先日見せられたがこれぞB級と言わんばかりの内容だった。なんでどいつもこいつも逃げずに台風を消そうとしてるんだろうか。

「いいけど」

 いつものように不動くんの家にあがる。夕飯を食べつつ映画を見て、終わったら雑談をする。本当にいつもの流れ。

 また、音がした。不動くんのスマホの通知音。

「誰?」

「ユミ……昼間会ったやつな」

 不動くんはアプリに届いたメッセージを一瞥して、スマホを伏せた。

「トイレ~」

 そして、廊下にでていく。残ったのは、私とスマホのみ。

「………………………………………」

 今なら。

 今ならこっそりとスマホを見れる。

「………………………………いや、だめでしょ」

 スマホに触れたものの、見ずに元に戻してに待っていると、やがて不動くんが戻ってきた。

「スマホ見てもよかったのに。それとも見た?」

「……何の話」

「スマホの位置がずれてるぞぉ」

「………………見てないよ」

「『二人で遊びに行かない?』ってだけ~。あ、断るわもちろん」

「……ああ、そう」

「……やっぱ三島は俺のこと好きだって」

「………………………………………………………………」


 恋とは美しいものだと思っていた。

 これが恋なら、恋とは喜びよりも怒りとか、妬みとか、苛立ちでできていて………随分と、あまりにも醜いものなのだなと思った。


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