不動くんと御山くん

 不動くんは黒いお化けに憎まれている。


 不動くんの背中にいっつもくっついている黒いもやのようなお化け。よくよく見れば女の人なのでどうせ派手に遊んでいたときに恨みを買ったのだろう。仮にそれがなくても、自己中心的で声が大きくて力ずくで物事を自分の都合のいいように解決することがあるので、どこかで恨み辛み憎しみを買っていそうな性格である。

 黒いお化けは少なくとも高校生のときからずっといるし、大学生になってもずっといる。


「な~あ~、課題いっしょにやろ? な?」

「夏休みの小学生かな」

「いいじゃんやろうぜ。ちゃんとやるからさぁ」

 借り物とはいえ自分の家を手に入れたからか、あの手この手で不動くんの家に連れ込まれるようになった。だからといって何かあるわけじゃないから、今日も引きずられて古い一軒家の中に行く。

 古い一軒家は良いたまり場だと判断したのか、たまに不動くんの友達もいる。不動くんの友達はだいたい不動くんと似たようなタイプの派手で自己中で筋肉質なタイプなので苦手だ。むしろよく同類が集まってケンカにならないなと思ったが、よくよく見ると不動くんが単純に一番"強い"ので周りがそれについているという体育会系の塊だった。

「お~、どうした」

「あれ、三島さん? もしかしてお邪魔だった?」

「別にぃ。お前ならいいや。三島もいいだろ?」

「いいけど」

 不動くんの友達の中で異質なのは御山くんだ。大人しくて中性的で、穏やかな性格。友達の中でも格別の存在で、中学のころはそれはそれはたいそうに大事にされていたらしい。

「親戚から送られてきてさ、お裾分け。あと課題のことで聞きたいことあって……」

「入れ入れ」

 持ってきてもらった季節のくだものを、不動くんは器用に切って皿に盛る。三人で雑談をしつつ、課題をこなす。

「そういえばさ」

「ん?」

「中学のとき二人って付き合ってたって本当?」

「えっ……と……」

「ハハハ三島にそれ吹き込んだバカは誰だよ教えてくれ殴るから」

「本当なんだ……ごめんね邪魔して……」

「違うから! 誤解だから!!! たしかにベタベタしてたけど違うから!!!!!」

「ふぅん」

「違うから! 信じて!」

 信じてくれよぉ、と不動くんがすがってくる。御山くんのほうを見ると「誤解だから……」と小さく困ったように笑っていた。

「なんで仲良いの。仲良くならなそうなのに」

「幼馴染みなんだよ。なあ?」

「うん。小学校入る前からいっしょなんだ」

「そうだぜ大親友。マイフレンド……男の友情ってやつだ。例え三島でも入ることはできねえんだ……」

 なんで肩組んで腰に手を回してるんだ。そんな態度だからホモ疑惑なんて湧くんだと思う。

「初めての友達だから思い入れも格別でな」

「へえ」

「それまで手下しかいなかったから」

「へえ……」

 三つ子の魂百までか。昔からそんなのだったのか。

「どうして友達になったの?」

「ん……ふふふ、それは三島にも秘密だよ秘密。なあ?」

「……………うん」

 御山くんが、目をそらした。

「俺と御山は本当の友達だからさぁ。ふふふ……」

「……………………………」

 

 一つ、気づいたことがある。

 不動くんの背中のお化けは、いつもは不動くんのことを見つめているのに、秘密の話になってから、御山くんのことを見つめている。

 さて、どんなろくでもない秘密なのやら……。

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