保育園の道
引っ越したさきの町に、幽霊が出る。
霊感なんてないが、相性なのかなんなのかその幽霊だけは視えた。半透明で、いっつも同じ服で、少しばかり宙に浮いていて、典型的な幽霊って感じだ。日月を減るごとに少しずつ少しずつ色が薄くなっていて、今はもう本当に消えてしまいそう。完全に消えたら成仏する、そんな気がした。
その幽霊は平日の朝はいつも同じ道を通っている。私の通勤コースと被るので、朝はほぼ必ず幽霊とすれ違うことになる。
その幽霊は三十代くらいの男で、いつも同じ一家の後ろをついていっている。その一家は朝、いつもお母さんかおばあちゃん、おじいちゃんの誰かが付き添ってそこの家の幼い女の子の保育園への登園のために歩いているのだ。
女の子が楽しそうなら幽霊も楽しそうだし、女の子が保育園の入り口でグズって中に入ろうとしなければつきそいの家族同様におろおろして、保育士の先生が中に連れていくまで見守っていた。
ある有休をとった日、今日はやたらと人が多いなと思っていると、保育園の卒園式の立て看板があった。ああだからか、と納得して用事を済ますために駅へと向かう。
用事を済ませて家に帰ろうとしたときはちょうど卒園式が終わったところだったようで、保育園から園児や家族がぞろぞろと出てきていた。
(あ)
いつもの子だ。幽霊がついていってる子。となれば幽霊も近くにいるのかと探してみたら、いた。すっかり色が薄くなって分かりにくいが、ポーズからして号泣しているのだ。幽霊は初めて見たときと比べるとあまりにも色が薄く、風にすらかき消えそうだ。なんとなく、天国かどこかに行く日は近いと感じた。
私はあの一家のことなんてまったくなんにも知らないが、入学式までは保つといいなと、少し思った。
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