目印の赤いビル
とある夜、コンビニの帰りに電話をしている女の人を見た。
「だからぁ、赤いビルだって。真っ赤なやつ」
どうやら道に迷って友達に電話しているようだ。今いる場所に特に目印らしき場所はなく、唯一目立つ異様に赤い外壁のビルを目印として伝えているが、相手には伝わらないようだ。
「そんなの知らないって……他に目印になるようなもの……」
かわいそうだったので、私はポンとその人の肩を叩いた。
「道に迷ってますか? そこの角を曲がって真っ直ぐいけば、大きな道路に出ますよ」
「えっ、あっ、はい?」
「そしたら近くに大きな焼肉屋があるから、そこを目印にしたらいいと思います」
「えっ、そうなんですか。はい、ありがとうございます」
急に話しかけられて困惑しながらも、女の人はそれをそのまま相手に伝えた。『焼肉屋……あー、あのあたりね!』と電話の相手にだいたいの位置は伝わったようだ。
再度礼をされて、女の人は角を曲がっていく。良いことをした。だってあのままだと、ずっと迷っていたから。
異様に異様に赤いビル。鮮やかな紅の外壁。上階の部屋から、誰かがじっとこちらを見ている。その誰かの輪郭は、霧のようにゆらゆらと揺れていて、定かではない。まるでガスの塊のよう。それなのに、目玉だけはしっかりある。
ここは、お化けが建てて、お化けがいるビル。普通の人には視えないビル。夕方や夜はときたま普通の人にもお化けや妖精さんが視えてしまうから、たまたま視えてしまい、普通のビルだと疑わずに目印として伝えたのだろう。当然相手には、そんなもの見えない。
赤いビルの人に小さく手を振ると、ガスの塊のようなお化けは小さく手を振り返したあと、カーテンを閉めた。
さて、私も帰ろう。コンビニで欲しかったものは買えたし、勉強の続きをしないと。
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