憎悪で咲く花

 憎悪によって美しく咲く花がある。


 その花の近くに感情がある存在、人間でも動物でもお化けでも妖精さんでもなんでもいいが、ともかく何かを"憎悪"する存在がいると、その花はそれらを吸い、栄養とし、美しく咲き誇るのだ。憎悪を吸われた側はその分感情が落ち着くだけなので、悪いことは特に起こらない。

 それは普通の人間にもよく知られた花だが、さすがにそんな生態は知られていない。ただのとても美しい花、という評価だ。

 美しいだけあって、その花の群生地にはプロの写真家や、SNSでの写真アップロード目的の素人、旅行者など様々な人が集まってくる。

 私も昔、家族旅行で行ったことがある。両親はただただ美しさに感心して記念写真を撮っていたが、私は一人で納得していた。

 その花畑の中央に、一本の木があった。とても太くて大きい立派な松の木で、まるで慕うようにその松の木を中心に花が咲いている。

 その町のパンフレットを見ると、ここは元々神社だったそうだが、江戸時代に別の場所へ移転したようだ。そのとき、御神木であったこの木だけ、どういう事情かここに残されたままのようだ。

 私には霊感があるからわかる。その松の木の成長に取り込まれ、中に埋まってしまった"呪いの藁人形"がいくつかある。

 花は、それを吸うためにここに群生している。江戸時代に、もしかしたらもっとあとの時代にも打ち込まれたかもしれない"憎悪"は花のエネルギーとなっている。

「…………………………………」

 木を取り囲む花は何百か、何千か。みんなめいめいに、好き勝手に憎悪を吸い上げている。

 それでも木に埋め込まれた憎悪は枯れることなく、今日も木と花は共に在る。

 いったいどれほどの憎悪を持って釘を打ったのだろうかと考えながら、私は両親に呼ばれてその場をあとにした。

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