冬という季節

 冬の道路には、妖精さんの死体が転がっている。


 冬を越せなかった妖精さん。元々冬を越せるほど長生きしない種族の妖精さん。道路にへばりついているそれらはさまざまな事情で命を散らしている。

『よいしょ、よいしょ』

『よいしょ、よいしょ』

 そして冬でも元気な、生物として強者の妖精さんが集団でそれらを拾って集めている。死んでいる妖精さんと生きている妖精さんの見た目はあまりにも違うため、違う種族なのがすぐわかる。妖精さんといってもとても多くの種族があり、それぞれあまりにも違う姿形をしているので、仲間意識はないのだろう。

 だから、気軽に道路から死体を剥がして集めるのだ。

『いっぱいだ、いっぱいだ』

『俺たちは一度戻ろう。袋がいっぱいだ』

『ついでにお茶も持ってきてくれ』

 そして"作業"が終わって一息ついて、仲間が持ってきたお茶を飲む。

『ねえねえ、こんなのを集めてどうするの?』

 お茶を飲んでいる妖精さんの服を、似たような容姿の小さい妖精さんが引っ張る。親子だろうか。

『集めて乾かして、◼️◼️粉と*****の指と、蜂の蜜と灰を少し混ぜると、畑の肥料になるんだ』

『ふうん』

『冬のうちにやっておくとちょうどいい良質な肥料が手にはいる。秋だと早すぎるし春だと乾かなくて遅すぎる』

 そんな会話を、バスを待っている間に聞いていた。雪よけなのか、彼らはバス停の隅で休憩しているからよく聞こえる。

「…………………はあ」

 それになんとも思わない。だって毎年のことだから。彼らが生きるために、道に落ちている"物"を拾って利用しているだけのこと。

「……でさ、あいつ懲りなくてさー」

「……ネイル塗り直そうかな」

「……新しいのほしいかなって」

 バス停なので、当然私や妖精さんたち以外にも普通の"人"がいる。本当に普通の学生。妖精さんの囁きなんて聞こえない、普通の子たち。

『去年の肥料は乾かす段階で……』

「マック行こうよー」

『今年は秋が長かったから食料も薪も余裕がある。こんなときだからこそ次の冬のために……』

「数学ほんと無理だって」

 人の声も、妖精さんの声も、両方聞こえる。やがてバスが来て、踏みつけるのもすっかり慣れた、道路に張り付いたぺらぺらの死体を踏んで、他の人と同じようにバスに乗る。

 でも同じように、なのはそこまでだ。私は一人離れた席に座り、スマホを黙っていじる。

「でさー」

「えー」

 わいわいと騒いでいる女の子との距離は近いのに、やけに遠く感じる。

 バスに乗ったときにあの子たちの席にぺらぺらの死体が乗っていたのを見たが、当然誰にもしゃべらない。そういう時期はとっくに過ぎた。

「………………………はあ」

 霊感がなかったらどういう人生だったのかな、と無意味なことを考えた。

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