残るもの
枯れ草
ライター
ロープ
魔法少女のステッキのおもちゃ
これが、最近私の家に届いたもの。差出人は不明だ。全て私宛であり、手紙もなくただ品物だけが届いている。
「まったく気味悪いったら……」
お母さんは嫌がっている。私も嫌だが、差出人がわからないのだから、対策のとりようがない。
「あ……」
今日もまた、私宛に差出人がない封筒が届いた。中に、薄っぺらいキーホルダーが一つだけ入っている。
(これ知ってる……幼稚園の時にやってたアニメだ)
今までに届いたものの共通点が「古めかしいもの」ということだ。どれも誰かが日常的に使っていた痕跡があり、発売日がわかるものを調べるとだいたい私が幼稚園のときのものだとわかる。キーホルダーも、傷だらけである。
いや、それどころかよくよく見るとキーホルダーのキャラクターの顔の部分にに針で突いたような点々とした傷がついていた。
(怖っ……手がかりになりそうだけど……これだけじゃな……)
いずれも大量生産品で、それ以上のことはわからない。どうしよう、と考えてるとふとよい考えが浮かんできた。
「愛奈、何してるのあんた」
倉庫で私が段ボールを漁っていたことに気づいたお母さんが声をかけてきた。
「日記探すの! たしかお姉ちゃんの真似して幼稚園くらいのときから日記書いてたから、もしかしたらあれのヒントになるんじゃないかって」
「幼稚園のときの日記なんて、字どころか絵ばっかりだったけど。なんもわからないんじゃないの」
「まあ暇だし」
「………しょうがないねえ。手伝ってあげるから夕飯の手伝いをしなさいよ」
そして私とお母さんの二人がかりで探しても、結局幼稚園時代の日記は見つからなかった。
翌朝、私はもやもやとした気持ちでいた。昨日の日記捜索がうまくいかなかったからだ。
(うーん……多分2冊目が幼稚園の頃のやつだと思うけど……)
その2冊目だけが見つからなかったのだ。古いから捨てたのだろうとお母さんには言われた。
「1冊目と3冊目にはあるのに……」
飲んでた紙パックのジュースをゴミ箱に投げ捨てるが、ゴミ箱を通り越して床へと落ちる。拾い上げて、改めて今度はちゃんとゴミ箱に捨てようとすると、ゴミ箱の中に見慣れないものがあった。
焼け焦げた、紙の切れ端。通常の紙より固く、かろうじて焼け残っている場所には2と書いてある。色と模様は、倉庫に置いてある日記帳の1と3と同じ色。
初期の日記帳を見つけたお母さんは言っていた。1と3はあるけど2だけないと。そして12 や22といった末尾に2がつく巻数の日記はちゃんと揃っていた。
「お母さん……?」
ピンポーン
チャイムが鳴る。聞きなれた郵便局員の声。軽い段ボールを受け取り差出人の住所を調べるが、テーマパークのものだった。過去のも封筒におさまらないものは、学校やカフェなど住む場所ではない、嘘の住所を書いておくってきたのだ。
「…………………」
箱を開ける。中には、昔見ていた魔法少女アニメの人形が入っている。まな、さおり、ユキ、りりな、エリーの5人組が主役の女の子向けアニメだ。
覚えている。たまたま魔法少女の名前が、自分や友達と同じだったので5人でしょっちゅうごっこ遊びをしていた。
まなは私。ピンク色のリーダーの魔法少女。炎の魔法を使って敵を倒す。
さおりは早織。黄色のかわいい魔法少女。応援でみんなをパワーアップさせる。
ユキは雪。緑色の元気な魔法少女。ツタで敵を縛り上げる。
りりなはリリナ。紫色のオシャレな魔法少女。幻を見せて敵を惑わす。
エリーは。
「……………………………………………………………………」
エリーは。水色の魔法少女。クールで水の魔法で敵を倒す。途中で魔法少女を裏切って敵になって、何度かの対決のあと、主人公のまなの炎の魔法の中に消えていった。
でもそんな名前の子はいなかったから。
「……………………………………………………………………」
そんな名前の子はいなかったから、4人で遊んでいた。気がする。
「……………………………………………………………………」
違う。
いつも5人で遊んでた。
「……………………………………………………………………」
エリーは。恵梨香は。
「……………………………………………………………………」
すぐ大人に、言いつける子で。
「……………………………………………………………………」
引っ越しで、どこかに行ったのだ。なんで引っ越したのかは知らない。
「お母さん」
お母さんの部屋に行く。
「恵梨香ってどうして引っ越したんだっけ?」
「…………………………………………………………………」
しばらく間があった。
「……さあ、仕事の都合じゃないの」
「そう」
部屋を出る。寒い季節なのに、汗がでてくる。
「…………………………………………………………………」
もういい。関わらない方がいい。これから差出人不明の郵便できたものはすぐに捨てることにする。
さっき届いた人形も捨てた。
ピンク色の魔法少女まな。
黄色の魔法少女さおり。
緑色の魔法少女ユキ。
紫色の魔法少女りりな。
「…………………………………………………………………」
一体だけ、全身が焼け焦げていたエリー。
「…………………………………………………………………」
ゴミ箱の奥底に捨てる。
もういい。考えない。何も考えない。
なんの関係も、あるはずないのだから。
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