流木

 流木を拾ってフリマアプリで売って小銭を稼いでいる。


 相続せざるを得なかった小さな山の中にある大きな川のそばには、たくさんの流木がある。それを処理してフリマアプリに出品すると、アクアリウムが趣味の人が、水槽のなかに入れるために購入するのだ。材料費はそこらへんに転がっている木で、処理に必要なのもブラシや重曹、煮沸消毒のための鍋ぐらいでそう費用はかからない。

 自分が管理している山なので揉め事も起こらず、既に今年どころか来年再来年の分の固定資産税を軽く越える額を稼いでいる。俺にとってはうまい商売だ。


「うん、いい形だな」

 仕事が休みの日に山に入る。先日大雨だったせいか、たくさんの流木が川岸に横たわっていた。観賞用であるため見た目が不格好なのは買い手がつかないので、アクアリウム関係のブログを読み漁って得た知識を活用し"好まれる流木の形"をしたものを選び抜く。

「これとこれと……これでいいか」

 まだいいものはあったが、とりわけよい形をしていたものを三つ抱えて山を降りる。一人では抱えられる量も限界があるのだ。また明日来よう。

「よし、面倒だけど始めるか」

 流木がいかに高値で買い手がつくかは、形はもちろんだがどれだけ丁寧に処理されているかにもかかっている。拾ってきた流木は汚れはもちろん中に虫がいたり白カビがついていたりする。そんなものに買い手はつかないので、丁寧にブラシで汚れを取り、大きい発泡スチロールに重曹入りのお湯をいれてしばらく浸けてアク抜きをする。その後も水に浸けたり乾燥させたり、浮かないように目立たない位置に小さく穴を開けて細工したりして、ようやく販売できるようになるのだ。

「おっ、売れたか」

 やっている間に、先日販売した流木が売れたという通知がきた。

 さて、次は出荷の作業をしないと。


*****


『○○さんはアクアリウムが趣味とのことで……』

 テレビにアクアリウムが趣味という人の水槽が画面いっぱいに広がっている。いくつもの美しい水槽の中で、これまた美しい魚がゆらゆらと泳いでいる。

「……………」

 でも、私が見ていたのは魚じゃなくて、水槽の中の流木。

 あれは山の神様の死骸だ。あるいは力の強い精霊か。領土争いか何かで敗北した、強いもの。それらの遺骸は復活できないようにバラバラにされて、カラカラに乾かされ、四方八方の川に流されていく。

 多分、それもそのうちの一つだろう。そしてその末に、ただの木だと思われて観賞用の流木になった。

「どう思うのかな……」

 その呟きは空気に消える。目を凝らしてもその体の持ち主の魂は視えず、嘆きも怒りも聞こえず、ただの遺骸が水に沈んでいるだけだった。



 

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