擬態
たまに、人間に化けてるお化けもいる。
(あっ)
それは霧の濃い日のことだ。信号待ちのスーツの男性が、見た目は完璧に人間だが霊感がある私にはお化けだとわかった。
霧の日や雨の日は、人間に化けはじめの頃のお化けが練習のために外に出てくるから、ときどき遭遇するのだ。雨の日や霧の日に多い理由は、視界が悪くて多少の粗はごまかせるからだ。
『む……』
つい目があってしまい、そのままコンビニの裏まで連れ込まれてしまった。
『なんだ人間。僕が人間でないことがわかるのか』
「まあ……霊感があるので」
『ふん、不愉快だな。いや、まだまだ精度が足りぬと言うわけか……練習をしなければ……』
私のことなんか放置して、ぶつぶつと呟いている。
「あの、帰っていいですか」
『ふん、とっとと帰るがいい。まだまだ努力が足りんということがわかった』
「はあ……じゃあ、お気をつけて」
『バカにするなよ。貴様はそれなりに"視える"ようだが、一般人程度にわかるものか。
霧の日に出てきたのも自信がないわけではない。我が一族伝統の……』
「いえ、そうではなくて」
そのお化けの言葉を遮る。もう遅いかもしれないけど。
「"霧"に化けるお化けもいるので……」
『は?』
霧は加速度的に濃くなっていき、そのお化けの姿を包む。そして今度は嘘のようにすぐに晴れ、いつも通りのコンビニの壁が見える。
さっきのお化けの姿はない。
「……………………」
……まあ、こうなったらどうしようもない。無事を一応祈りながら、コンビニの裏をあとにした。
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