廃屋探検

 廃屋に探検に行こうという話になった。


 小学生の夏休み。宿題も早めに終わらせいくらでも遊べる輝かしい時間である。

「○○の✕✕にさ、誰も使ってねえ家があるんだよ」

 友達の誰かがそう言い出した。そこを探検しよう。いいとこだったら、秘密基地にしよう。そうしてクラスの悪ガキが集団になり廃屋探検隊が結成された。

「ここだよここ」

 住宅街の外れの林道を奥に進んでいくと、たしかに使われてなさそうな家があった。おそらくガーデニングかなにかするために広めの土地目的にそこを選んだのか、草がぼうぼうに生えた畑の残骸や割れたり転がったりしている鉢が無数にある。

 家は既に誰かが侵入しているのか、落書きをされたり荒らされたりしている。

「秘密基地にはできねえかな」

「だな」

 でめ探検はできる。途中でひろった"いいかんじ"の太い木の枝を振り回しながら、一階と二階を見て回る。

「おい、すげーもん見つけたぞ」

 一階の別の部屋を見ていた友達が声をかけてきた。なんと、空っぽの本棚の裏に隠し扉があった。開いてみると、地下に通じているようだ。

「すげえ!」

 隠し扉。地下室への道。みんな興奮している。自分もいっしょになって木の枝を振り上げる。

『…………………………………………』

 なのに、急にゾクリときた。

 開いた地下への階段。それは真っ直ぐ地下へと進むのではなく、短いながらも途中で踊り場がある。そこにはボロい布が敷かれていた。

 なんだか、あの布は、嫌だ。

「ちょ、ちょっと待って」

「なんだよ怖じ気づいたか」

「違うって。あの布は避けとこう。踏んで転んだら嫌だし」

「? うん」

 普段大雑把な自分らしくない言葉に友達がきょとんとした顔をする。自分だってらしくないと思う。でも……あの布は、嫌なのだ。

 一人でさっさと踊り場に行き、持っていた木の枝で布を横に寄せる。

「うわっ、床腐って穴空いてるじゃん」

「危ねえー」

 何があるんだろうな、と誰かがライトで照らした。


*****


 某市での事件は世間を騒がせた。廃屋の中から遺体が数体見つかった。いずれも行方不明の届け出が出ていた不良グループや、あるいはホームレスといった者だった。

 廃屋の地下にある踊り場の穴を踏み抜いて落下死。それがみんなの死因だった。

 だが、その踊り場の下には、仮に運良くうまく着地できた者がいたとしても、それを許さぬ強い殺意の現れであるような、尖った鉄の杭が上を向いていたのだ。しかもその先にはご丁寧に犬の糞まで塗りつけられているのである。

 家の持ち主は天涯孤独の認知症の老人であり、ずいぶん前から施設にいる。

 杭に使われた資材は老人が施設に入所したかなりあとに発売されたものであることが警察の調べでわかった。つまり不法侵入した誰かがこれは使えるとトラップをしかけていたのだ。

 地下の遺体は地下室の気温のせいなのか、遺体はみんな屍蝋と化していた。

 そして、みんなきれいに椅子に座らされていた。

 地下はきれいに整頓され、まるで誰かが暮らしているよう。そこで遺体たちは、まるで夕飯のワンシーンのように、椅子に座らされ、テーブルの上には空とはいえ、皿が置かれていた。


 異常者だ、連続殺人鬼だと怖いニュースが続くある日、夢の中に風体の悪い若者や老人が武器をもって自分を見つめていた。

 怯えていると、若者の一人が『あー……』と言いにくそうに口をモゴモゴと動かしていたが、ようやく口を開く。

『ありがとうな、ボウズ』

 そう言って、全員どこかへと歩いていった。


 少し後の話である。

 *****市のサラリーマンが無惨な遺体で発見された。

 警察が捜査したところ、例の廃屋の事件の犯人であることがわかり、被害者たちの呪いだなんだとまた騒がれた。


 廃屋は壊され、もうそこには何もない。

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