おもちゃ(自販機)

 むかしむかし、とてもむかしの話です。

 空の上にいた神様は、毎日を楽しく過ごすためにおもちゃをたくさん作りました。たくさんたくさん作りました。

 失敗したものや出来が気に入らないもの、作るときに出来た破片がたくさん溜まったので、神様はひとまずそれらを全て、空いているおもちゃ箱へ全部しまいました。

 しかしあるとき、神様はうっかりおもちゃ箱をひっくり返してしまい、中に入れていら"それら"はバラバラとなって地上に降り注ぎました。あっという間に雲の下へと落ちていき、もはや神様でもどこにいってしまったかわかりません。

 神様は、召し使いに全て探しだして回収するように命じました。


 そして今に至ります。


*****


「ほんとふざけんじゃねえぞオメー」

「悪かったって」

 夜の道、自分含む三人で車を走らせていた。助手席の友人は運転手の友人にすっかりおかんむりだ。

 当然だろう。死体の処理なんてさせられたのだから。

 夜の海にまできて、運転手の友人が勢いでやってしまったらしい死体をテトラポットの隙間に捨ててきた。これでもう多分大丈夫だろう。テトラポットの下はプロのダイバーですら近づけないところだと聞いたことがある。

 ……まあ、たまにあることだ。お互い様だ。自分は後部座席でただ紫煙を燻らす。

「あ、自販機あった。寄るわ」

 運転手の友人が脇に車を寄せる。自分も何か飲み物を、と思って助手席の友人ともども外に出た。

「……なんじゃこりゃ?」

 自販機にある商品はたった一つ。ボタンすら一つ。値段は百円。

『なんでもお願いを叶えます。百円をいれてお願いを言ってからボタンを押してください』

 そう、缶に書かれていた。

「なんだこりゃ……意味わかんねえや別の探すか……」

「よし。罰ゲームだお前これ買え」

「はあ!?」

「うるせー。めんどくせーことに巻き込んだ罰だ」

「しゃあねえなあ……」

 友人は百円を入れた。

「えーと『ハリスラのライチ味をください!』」

「なにそれ」

「マイナーなジュースだけど好きなんだよ。去年の夏限定だったんだよなライチ味……今年は別だったし……」

 言いながらボタンを押すとガコンという音がして、下の受け口に缶が入っている。

「うわ、本当にハリスラのライチ味じゃん! 賞味期限もまだずっと先のちゃんとしたやつ!」

「え、マジ? マジだ」

 もう一人の友人が興味深そうに缶を見る。

「ええ、じゃあ俺もやるわ……『一万円ください!』」

「お前それはさすがに……」

 ガコン!

 入っていたのは、一万円が巻き付いた缶ジュース。

「は!?」

「なにこれ!? ドッキリ!?」

 こんな山奥に一般人相手にドッキリもないだろう。

「おい、じゃあ俺の番だ」

 タバコを消して、百円を入れる。

 そして、願いを。


「…………………ふーん」

 『こいつらを消してください』という願いはすぐに達成された。自販機の受け口や釣り銭といったあらゆる隙間から腕が出てきて、あっという間にトラブルメーカーの友人二人は自販機の中に消えていった。

 またタバコをつけて、煙を吐く。ああ、清々した。喧嘩っ早いせいで面倒なトラブルが多くて嫌になってた頃だった。

「使えるなあ。お前」

 自販機を撫でる。ぶぅん、という機械特有の音がした。

「さて、これからこいつをどう利用するか……」


 ガサリ、と草を掻き分ける音がする。

「……猫か」

 白猫がいた。じっとこちらを見つめている。いや猫だけではない。いつの間にか集まっていた白いカラスも、白い犬も、白い鹿も、白いネズミも、白いカエルも。

『"おもちゃ"です』

 そう、白猫が告げた。

 カタン、と音がして、白い腕が、自販機から伸びてきた。


『この自販機は願い事を叶えます。シンプルです。以上』

白い犬が語る。引き継ぐように、白いカラスも嘴を開く。

『この世界にはあまりに不相応。神の力を多く宿すおもちゃ。いますぐ隔離を開始せねば……』


 その後、そこで自販機を見た者はいない。

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