遊ぼう
雨が強い日は学校に残ってはいけない。
「早く帰らねえと『遊ぼう』がくるぞ!」
「友也~、早くしろよ~!」
「ま、待って……」
子供たちはどんな子供だってその日はさっさと帰ってしまう。モタモタせずに足早に帰る。部活だって中止になる。
ざあああああああああ
「あっ……」
『遊ぼーーーーーーー』
『遊ぼう』は、大きいぬいぐるみ……に見える。普通のぬいぐるみみたいに足はなく、パペット人形のように裾が広がっている。目はボタンで、鼻はなく、口だけはやたらと大きくて顔の半分以上を占めており、そして大きな大きな歯がついた、リアルな人間の口がついている。だがそのなかには舌はなく、代わりに大きな肉塊がある。そこから聞こえる声はやたらとくぐもった男の声が複数同時に喋っているような、妙な声だ。
『遊ぼう』が現れると、周りにいたはずの人がいなくなる。窓も開かなくなり、外に続くドアも開かなくなる。どこかに逃げ込んで鍵をかけても、『遊ぼう』はまるで鍵なんてないみたいに、それをあっさり開ける。
だから『遊ぼう』と遊ぶしかなくなる。
『トランプをやろーーーーー』
「う、うん……」
『遊ぼう』はいろんな遊びの道具をもっている。カードゲームやボードゲーム、他にもいろいろ。何回か遊べば満足して去っていく。そのあとは周囲も元に戻る。
『遊んでくれてありがとーーーーーーー』
「…………う、うん」
『この前拾った宝物をあげるーーーーーーー』
『遊ぼう』は去る前に、何かをくれる。くれるものは、いつも違う。
お金をもらった子もいる。デジカメをもらった子もいる。ロープをもらった子もいる。用途がよくわからないものをもらった子もいる。お菓子をもらった子もいる。水のペットボトルをもらった子もいる。
『じゃあねーーーーーーーー』
「じゃ、じゃあね……」
ざあああああああああああ
雨の音は相変わらず。でもその雨音の中に、わずかに近くの道を通る車の音が混じっている。
ほっとした。元に戻ったのだ。
「……なに、くれたんだろう……」
畳まれていて、少し汚れた紙だ。お金ではない。広げて読んでみる
『遺書』
*****
✕✕山で自殺者の遺体が発見された。遺体は既に白骨化していて、近くにあった荷物も荒らされていた。
不審者が小学生にその自殺者が記した遺書を渡すという事件が起きており、警察は関連があると見て捜査を始めたという。
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