いのちは美味しい
『いのちは大切にしないといけないわ! でもいのちは美味しいわ!』
正直な妖精さんがいた。
この妖精さんの種族は人間と同じように肉も野菜も魚も食べるタイプのようだが、この人はいわゆる菜食主義らしい。
ただ肉は美味いと言いきっている辺り、人間のいのちの大切さを説くタイプの菜食主義よりは割りきっているようだ。
『お肉は食べたくないけどお肉の味は食べたいの!』
「人間の世界にはソイミートとかあるよ。大豆をお肉っぽくしたやつ」
『ええ! ええ! 素晴らしいものだわあれは! いのちを奪うことなくお肉のようなものが食べられるのだから!
でも、私が求めてるのは"お肉"なの! でもいのちを奪うなんて残酷だからできないわ!
この相反する考えを両立したのがこれよ!』
そう言って、畑に案内された。
土に、人間が頭半分まで埋まっている、畑。
いや牛も豚も鶏も鹿も魚も蟹も貝も犬も猫も、体の大半を土に埋めながらじっとしている。
「………………人工肉?」
『ええ、あなたたちの言葉を借りて言うなら、それだわ!
ここは私が作った、お肉の畑なの!』
この畑に埋まっている生き物はあとから埋められたものではなく、この妖精さんが独自に作った"種"から育ったものだという。
種は複数種類あり、成長すると人なり豚なり特定の生き物とそっくりに育つという。どんな術を使ったのかわからないが、見た目が生き物の野菜ではなく、ちゃんと肉であるらしい。
かといって生きているわけではなく、その体内に心臓はあっても動くことはないという。とうぜん意識もあるわけがない。
ここはいのちがない、生き物の死体が育ってくる畑だ。
『あなたは人はさすがに食べれないわよね。豚はどう?』
「いえ、お腹が一杯なので。
他の菜食主義の妖精さんも、この畑を?」
『それがみんなわかってくれないのよ! ドン引きされてしまうの。まったく悲しいことだわ。お肉が美味しいってことはみんな知ってるじゃない』
だろうなあ、と思った。
帰り道、さっきの妖精さんと同じ種族の妖精さんと会った。
『あら、あの畑に連れていかれたの? もう! あそこには人の肉もあるじゃない! そこに人を連れていくなんて!』
「他の妖精さんには反対されてるみたいだね」
『あそこまでやるなら、もうお肉を食べちゃえばいいのよ、もう!』
いのちは奪わずに、肉を楽しむ。
人工肉だって人間の世界にあるのに、あの畑を見たときの例えようのない気持ちを、おそらく「倫理」のジャンルである部類のその気持ちを正しく言葉で表現することは、ただの女子高生である私にはできなかった。
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