アイドル
中学のとき、私は不登校だったので、フリースクールに通うことになった。
そこでちょっと仲良くなった子がいた。地味で大人しくて……巨乳、いや爆乳の子。Jカップとか聞いたときは本気で驚いたし、同性のよしみでさわらせてもらったときはあまりの柔らかさに「嘘……」と呆然となった。私のB……になれそうでなれないAとは違う。
「私ね、グラビアアイドルになろうかと思うの。スカウトされちゃった」
恥ずかしそうに、その子、佐恵子ちゃんは言っていた。佐恵子ちゃんは胸はおっきいが顔が地味な子で、生活も自己主張を全然せずおどおどしてる子だから正直心配になった。なんせ、何があったのか知らないがフリースクールにいるくらいの子だ。
「だ、大丈夫なの?」
「スカウトされたときはびっくりしたけど、事務所の人も優しくて……」
そして、自分の胸をさわる。
「自慢だろって思われるかもしれないけど、私、この胸で嫌な思いばっかりしたの。男の子にからかわれたし、知らない人にすれ違いざまに揉まれたり……だからこの胸は嫌い。
でも、自分の体の一部が嫌いだってなんかおかしいし、グラビアならこの胸は武器だって言ってもらえて、嬉しいの。初めてやりたいことを見つけたの」
「…………………」
「正直反対はされてるけど、私、やってみたい」
いつも俯いている佐恵子ちゃんが真っ直ぐにこっちを見てきて、私は……反対の言葉を、出せなかった。
*****
「ねえ不動くん」
「ん?」
「不動くんってアイドルとか向いてそうだよね」
「芸能界? まあこの美貌ですし? 当然トップになるけどさぁ。けど急にどうした?」
「そこだよ」
「?」
「我が強いし……同業者蹴落とすのに、なんの躊躇いもないでしょ」
ニイ、と意地の悪い笑みを浮かべている。それですら様になってるんだから美形は得だ。
「昔ちょっと仲良かった子がグラビアやってたけど……最近全然でてないからね……胸は大きいけど大人しくて地味な子だったな……」
「グラビアか~。生き残るにはテレビ用にトーク力とか必要だろうな」
大人しくて胸の大きい佐恵子ちゃん。デビューしてすぐは雑誌の表紙を飾ったり、巻頭カラーで何回か水着姿になっていた。
けどそれっきり。グラビアアイドルとしての佐恵子ちゃんは音沙汰無くなって、アイドルも辞めたと思っていた。
先週、佐恵子ちゃんと街で会った。一重だったのが二重になって、鮮やかなメイクをして、露出が多い服を着て、派手な男の人を連れていた。
佐恵子ちゃんのお父さんから、佐恵子ちゃんな家出をしたから居場所を知らないかと問われた。
今はどこにいるのかわからない。
(止めるべきだったのかな……)
わかっていた。胸は大きいけど、地味で口下手で大人しい佐恵子ちゃんが芸能界に向いてないことを。胸が大きいくて、佐恵子ちゃんよりずっと"できる"人は芸能界にはもっとたくさんいるのだ。
あのときどういう言葉をかければ正解なのか、今でもわからない。
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