遊び相手
いつも一人ぼっちだった。
「…………」
引っ込み思案なせいで、幼稚園では友達ができない。だから公園ではいつもサッカーで遊んでいる近所の子たちを見ながら「うらやましい」と思いつつ携帯ゲーム機で遊んでいる。
「ぼく、お友達と遊ばへんの?」
「?」
唐突に聞こえてきた関西なまりの声に声を上げる。白シャツにスラックスの若い男が立っていた。
「お友達じゃないもん……」
「なんや“ぼっち“か少年。アカンで……いや、ダメだぞ、か? 東の言葉は難しいわ」
男はベンチで隣に座ってきた。距離を少し開けても、すぐに寄ってきた。
「何のゲーム?」
「……ポケモン」
「はー。今ポケモンそうなってんの。お兄さんが子供ンときはもっとこう……平べったい見た目だったけどなぁ」
平べったい、とはなんなんだろうか。聞いてみたいが、知らない人と話してはいけませんとお母さんに言われている。
「君今から俺とお友達な」
「え!?」
「どーせ知らない人とお話してはいけませんーとか言われてるやろ……だろ。じゃあお友達になろうな?」
「え、えー……」
「なんだ。嫌か?」
「し、知らない人だし……」
「じゃあ」
指をさす。その先は、サッカーをしている子供たち。
「あの子たちに話し掛けてくるのは?」
「…………」
「どうせ顔や名前は知ってるだろ」
「……幼稚園、同じだから」
「お兄さん、お節介だからなあ。坊主みたいなの見てると構いたくなってしょうがないわ。君も同じくらいのお友達と遊びたいだろ?」
「そ、そうだけど……」
「誘うの恥ずかしいってか?」
まるで全て見透かされているようだ。
「だったらお兄さんもいっしょに行ってやるわ」
「え!?」
「ほな行こか」
ぐいぐいと押されて、あっという間にみんなの前に出された。さすがに気付かれて、みんな不思議そうな顔をしている。
「? どうしたの?」
「この子が言いたいことあるらしくてなあ。ほら」
「……う……あ……」
緊張する。恥ずかしい。でも、無理矢理とはいえここまできたら言うしかない。
「い、いっしょに、遊ばせ、て……」
「いいよー」
あっさりとOKが出て、混ぜてもらうことになった。お兄さんにお礼を言おうと振り返る。
黒。
*****
地獄絵図だった。現場を訪れた救急隊員がまず浮かべた表情は、諦め。
飲酒運転の大型車が公園に突っ込んできた。子供たちはみんな肉色を晒しながらひしゃげて地面に転がっている。さっきまで駆け回っていた子は、もう誰一人として動かない。警官や救急隊が行き交う公園内を、一人の男が微笑みを浮かべながら立っていた。
その服は白いシャツとスラックスではなく、喪服だった。
「すまんなあ少年」
関西なまりの言葉を話す男は、事故現場を見ながらただにこやかに笑みを浮かべる。
「お兄さん、死神やねん」
喪服の死神は夕方から夜にかわりかける薄闇の中に溶けていき、一陣の風のあとにはその姿はどこにもなかった。
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