彼女の勘
友達の泉は、勘がいい。
「こいつとこいつとこいつはダメねえ」
「あったりー!」
不動が腹を抱えて笑っている。泉は得意げな顔だ。
「悪趣味だろ……」
幼稚園時代のアルバムを開いて、性格が悪いやつを当てる遊びなんて。
僕と不動は幼稚園から付き合いがあるが、泉は小学校に入ってからの付き合いだ。当然僕らの幼稚園時代のことなど分かるわけもないが、泉はアルバムを一度見ただけで意地悪な女子を当てた。
泉は勘が鋭い。特に他人の悪意には敏感で、それが女を相手にすると超能力者のごとき勘が働く。
それはすごいことであるが。
「わざわざ学校にアルバム持ってきてやることがそれか」
「まあまあアルバムつっても写真まとめただけのこんなペラいのだし。せっかくクローゼットの奥から見つけたし」
「この女も悪いわねえ……」
指した先は園児ではなく、保育士。
「何言ってるんだ。この先生はとてもよく……」
「いや、この先生不倫してたぜ。発覚したのは俺ら小学生くらいのときだけど。十年以上付き合ってたって」
「本当なのか!?」
「ほんとほんとー。当時は近所中それでもちきりだったぜ。別れるがどうの奥さんがどうので大喧嘩して警察呼ばれたりしてさー」
父子家庭で近所付き合いをあまりできない僕の家は噂話には疎い。まったく知らなかった。幼稚園時代に優しく接してくれた記憶しかない。
「知らなかった……こんな人がお母さんだったら良かったなと思うくらいだったのに」
「美人で優しくて胸がでけーからなあ」
ケラケラと笑う不動。一方泉はじっと写真を見ている。珍しい。いつもならここで不動といっしょに茶化して笑ってるのに。
「あ、そうだ購買行かなきゃ」
「どうした」
「ご飯足りなくて今日は弁当なしなんだよ。昼は争奪戦だし朝のうちに買っておかないと」
「おー。いってらっしゃい」
そうして、財布を握りしめて購買に向かう。
御山の背中を見送る。足跡はどんどん遠くなっていって、もう周りの喧騒と混ざってわからなくなった。
「ねえ」
「うん?」
「この女の悪さは不倫の悪さじゃないわ」
薄い笑顔のまま、そう言う。根拠はまったくないが、確信はあるようだ。
「せーかーい。不倫はしてないでーす。御山とか、他にも園児の写真を長年盗撮してたのがバレて園を辞めましたー」
「まあ」
「発覚したのが小学校の高学年のときでいろいろデリケートな時期だったから、耳に入らないように俺もあいつの親父さんも周りも気ぃ使って何も知らせてねえんだよ。今も何も知らないようで良かったわほんと」
「あら優しい」
「当然」
当然のことだ。友達なのだから。「いいわねえ。そういうの」とまた薄い笑みを貼り付けたまま、泉は重ねるように付け足した。
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