恋の欠片
……結局、あれからも変わらず「友達」のままだ。
「じゃーな」
「じゃあね」
言って、家に入る不動くんの背中をなんとなく見送る。
この間の一悶着の翌日も、不動くんは普通に話しかけてきた。まるで何事もなかったかのように。正確には、最初の一回は少しどもっていたから緊張はしていたのだろう。
(……これは恋なのかな)
分からない。体を許しても良いかなと思った原因が恋なのか性欲なのか、分からない。
不動くんは美形でかっこよくて守ってくれるが、反面、急に刃物を振り回すし仲良くなる前はストーキングもやっていた子だ。
普通に話せるし、SNSでのやりとりにも特に緊張はない。恋というものは本を読む限りだともっとドキドキするものじゃないのだろうか。とはいえ、距離が近いのは自覚がある。
(……わかんない)
足元の、やたらキラキラした何かを蹴る。
「ん……?」
転がる何かを追う光があった。桃色のそれは、見たことがなかったが。
「……妖精さん?」
『あら、あなたヒトなのに私が視えるの?』
『私はねえ、恋の妖精よ』
「……恋」
何かの縁、と妖精さんが住処にしている空き家に連れてこられた。壁にはキラキラした何かの標本がたくさんある。
『そう。恋が好きなの。こうやって飾るくらいにね?』
「飾る?」
『これはね、恋の欠片なのよ』
失恋、自覚する前になくなってしまった恋、叶う前に恋患った本人が死んでしまった恋。
『そうやって叶わなかった恋は割れて欠片となって道端に落ちてるの。私はそれを拾って磨き上げるのが好き』
「………」
欠片をよくよく見ると、映像が映ってる。学生の男女が、楽しそうにおしゃべりしている映像。
『男の子か女の子か、どっちが持ってたものか分からないけど、お友達を好きになったみたいね。いいわ、青春ってかんじで』
「……友達」
『あなたは、どう?』
「………………………………」
『あらあらあら、何かお困り? 恋? 恋かしら?』
「……恋なのか、情なのか、分からない子はいますね」
『あらあらあらあら』
楽しそうだ。
『ふふふふ、本人が捨ててないうちは私にはなぁんにも分からないわ。恋かもしれないし、お友達に対しての“好き“かもしれない。もちろんどちらも素敵なものよ?』
「…………」
『じっくり考えるといいわ。浅はかな考えで動いて傷つくのもイヤだもの』
「……そうですか」
『そうよ、私に断言できるのはね』
妖精さんは小さい木の実を囓る。
『恋であれ、恋かもしれないと思ってしまうほどの友情であれ、それがあなたにとって良いものであることなことだけね』
フフ、と恋の妖精さんは笑った。
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