台風の日

 台風の日、私が住んでいる地域も大雨と猛烈な風に襲われていた。


(妖精さんたち、大丈夫かな)

 膝の上に乗る愛猫アンコを撫でながら、道で出会う野良猫や野良犬、そして、霊感がある私には見える妖精さんたちへと思いをはせていた。

 妖精さんだって同じ地域に住み続けているのだ。人間と同様に台風の対策はしているだろうが、今回の台風はいつもよりも強い。人間より遙かに軽い妖精さんは屋内に退避しなければ風で飛ばされてしまうだろう。


 コンコンコン


 窓を叩く音がする。私の部屋は二階なのに。

『助けておくれよ』

 ずぶ濡れになった顔見知りの妖精さんだ。窓を開けて入れてあげる。

「雨風が止むまでだよ」

『ああ、それで十分さ。酷い目にあった』

 ドライヤーで服を乾かしてあげたりする間に雑談して妖精さんたちの様子を把握する。

「へえ、じゃあ他のみんながどこに行ったのかわからないんだ」

『ああ。俺は一匹狼っつーか、あんまつるまないんでね。他のやつらのことは知らんよ。ま、どこかにテキトーに入り込んでるだろ。この雨風だと、いつものねぐらにいたら確実に死ぬしな』

「心配だね」

『心配? いやあ、別に』

 ふっ、と妖精さんは小さく笑う。

『俺たちってやつは、お前さんが思うよりもずっとしぶといからな』


*******


 翌朝になって、飛んできた草や木の枝にまみれた車庫や庭の掃除を手伝う。道を行き交う人々の話題も台風一色だ。

(他の妖精さんたちは大丈夫かな……)

 私の部屋に避難した妖精さんは無事一夜を越えて、今は庭の葉から朝露を汲んでいる。

(どこかの家に入り込んで……ん?)

 道を歩いて行く人々が、いっせいにくしゃみをした。その口から、何か飛び出たような。

「はくしょん!」

『ああ、えらい夜だった!』

 ……くしゃみのたびに、口から小さい妖精さんが次々と出てきた。

『まったくね! それにしても人の体の中は存外に温かいわ!』

『うん! 湿気があるから普段使いには向かないが、非常用としては申し分ない!』

「はくしょ! くしゅん! ああやだくしゃみが止まらない!」

「乾いた泥が空気に舞ってるのかしら。嫌ねえ……」

 そんな会話を聞きながら手が止まっている私に、朝露を汲み終わった妖精さんが近寄ってきた。

『な? しぶといだろ?』

「そうだね」

 人より遙かに弱くても長い間生き残ってきた種族。その理由の一端を見つめながら、私は掃除を再開した。

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