落とし物おじさん

 この街には落とし物おじさん、という人が出現する。


 人、とは一応言われてるが本当に人なのかは怪しい。なんせ何十年も前から同じ姿で目撃されているのだ。

 いつも頭に紙袋を被っていて、その表面には落書きみたいな目だけが二つ描かれている。口も鼻も描かれていない。

 体は黒い。全身黒タイツを着ているのだろう。そうとしか思えないほど黒い。そして体はどこもかしこも細い。

「落とし物だよぉ」

 そう言って、落とし主に落とし物を手渡す。そしてそのあとは四つん這いになって信じられないほどの速さで去って行く。そういうおじさんだ。それ以上のことは誰も知らない。謎が多すぎて怖がる子もいるが、誰かが襲われたとかそういう話は聞いたことがない。


「あ、落とし物おじさんだ」

 小学校からの帰り道。友達の一人がそう言って近くの路地裏を指さした。いつもは高速で動くおじさんが、珍しくうろうろしている。手に何かを握っているから、落とし主を探しているのだろうか。

「おじさん何してんの」

「話しかけんのかよー」

 ランドセルをカチャカチャいわせながら、集団で近づく。見た目はアレだが特に怖い存在ではないことはみんな知っている。

「落とし物ぉ、届けたいけどお、落とし主わかんなあああい」

 落とし物おじさんはいつもこんなかんじのしゃべりかただ。

「探すの大変だろ? 俺たちが交番に届けてやるよ!」

「いいのぉ?」

「いいよ! 気にするなよ!」

 友達の一人が胸を張った。なんだか善行をしている風だが、この友達は銃が大好きなのだ。交番に行って、お巡りさんが腰にさしている銃をチラリとでも見たいだけだろう。

「重いからああぁぁ気をつけてええええぇぇぇええ」

 そう言って、なんでその手に握り込めていれたのかというくらい、大きなものを差し出して。



「ただいま」

「おかえり千花」

『逮捕された佐藤容疑者はおおむね容疑を認めており────』

 高校から帰ると、テレビでニュースをやっていた。この街の風景が映っている。

『この事件は佐藤容疑者が紛失した実銃を子供たちが拾って交番に届けたことから発覚して────』

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