痴情の縺れ

 私と彼は、ずっとずっといっしょ。


 生まれたときからずっといっしょ。愛し合っている。体が朽ちるまでずっといっしょだと誓ったのだ。

 なのに、裏切られた。浮気されたのだ。■■■なんかに。絶対に許せない。

 殺してやる。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す─────────。

 無惨に、ズタズタに、絶対に、殺してやる。


*****


「うわあああああん!!!!!」

 子供部屋から幼稚園児の娘の泣き声。どうしたのと駆けつけると、床に散らばっていたそれを指さした。

「え、どうしたのこれ!?」

「わかんない! おへやに入ったらこうなってた!!」

 お気に入りのクマとウサギのぬいぐるみが、原型を留めぬほどにバラバラになっている。子供がイタズラでやったとは思えない。かといって、こんなことするような大人にも心当たりがないし、うちにペットもいない。


 カラン


 金属音。振り返ると、刃の出たカッターが落ちていた。こんなもの、子供部屋に置いてないのに。

「これ、どこから……」

 しゃがんで拾い上げて、上を見る。位置的に、クローゼットの上から落ちてきたのだろうか。

 クローゼットの上にあるのは、ズタズタになったクマのぬいぐるみとセットで買った、メスという設定なのか、リボンがついたクマのぬいぐるみ。

 普段は正面を向いて置かれているそれは、今はなぜかこちらを向いて、そして少しうつむいて、こちらを見下ろしている。

 まるで、そのクマのぬいぐるみが、カッターを落としたかのような、そんな気分に私はなった。

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