霊感少女の些細な日常

 私には霊感がある。みんなはそんなものいるわけないとか痛い子とか言ってるけど、視えるものはしょうがない。

 けどそんな私のことを好きだといってくる子もいる。


「おっはよう三島!」

「おは、うわっ」

 日曜。クラスメイトの不動くんが朝から抱きついてきた。

「なんなの」

「痛い痛い痛い。ほらお前かわいいから、つい」

 待ち合わせ場所はアーケード街の自販機の前。周囲の視線を感じながら、思い切り足を踏む。

「ごめんって。まあ、行こうぜ」 

 当然のごとく腰に手を回してくる。

「美味い店なんだよほんと」

 今日はオススメのインドカレー屋に行く日。たしかに風の噂で美味しいとは聞いていた。

「今日人多いな」

 たしかに多い。日曜は元々人通りが多いエリアだが、今日は特に人が多い。

「近くでライブがあるはずだよ」

「ああそれで────ん?」

 多くの人でざわざわしたアーケード街。そこにいるのは老若男女、国籍すら多彩な人々。それなのに、ほんの一瞬で人々が消えた。

「…………」

「は!? 今いっぱい人いたよな!?」

 アーケード街は、まるで廃墟のように誰もいなくなっている。さっきまで隣にいた人も、前を歩いていた人も、今はもうどこにもいない。ほんの一瞬で、ふっと消えてしまっていた。

「え、何コレ怖いんだけど。夢?」

「夢ではないと思うけど」

「痛い痛い痛い」

 不動くんの足を踏みながら言う。たしかに痛みは感じている風だ。

「え、何コレ意味分かんない。キモ。とにかく出ようぜ気味が悪────」

『あーーーーー』

 声が、聞こえた。

 振り返ると、男の人“のようなもの“が立っていた。

 身長は二メートルほど。肌は異様に青白く、髪はない。服も一切身につけておらずら裸だ。手足が異常に細長く、手なんて地面についてしまっている。顔面は、目鼻口はあるが、それがかき集めたように顔の中央に集約していた。失敗した福笑いのようだ。

「な、に……これ……」

 あからさまな化け物の登場に、不動くんがひいている。

 お化けは『あーーーーーーー』と奇声を発しながら、こちらに近づいてきている。

「逃げるぞ!」

 不動くんは私の手を取ってきて、走ろうとする。けれど、私の体は動かない。

「三島!?」

「嘘つき」

「は?」

「不動くんはね、しつこいし強引な子だけど、抱きついてきたり腰に触ったりはしてこないよ」

「…………」

「あと、私が足踏んだりした程度で痛いとかも言わないの。頑丈だから」

 今まで焦っていた顔だった不動くんが、クスリと笑顔を浮かべた。

「アハッ、凡ミス!」


「…………」

 そして、世界は元に戻った。

 多くの人が行き交うアーケード街。そしてその中の自販機の前。近くに不動くんの姿はない。お化けの姿も、ない。

「…………」

「おはよーっす。三島」

 不動くんが声をかけてきた。抱きついてはこない。

「…………」

「え、何、じろじろ見て」

「……ねえ」

「ん?」

「もし今私に何しても怒らないよって言ったら何をする?」

「えっ!?」

 驚いたあと少し考えて、不動くんは私と手を繋いだ。

「……元カノとかいる割に、大人しいね」

「俺けっこー順番とか守るぜ?」

「ふうん」

「ところで何のサービス? ようやく付き合ってくれんの?」

「しないよ」

 

 自分よりもはるかに大きい手を握りながら、混雑する雑踏の中を、二人で移動するのだった。

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