未来の自分

 私のもとに“未来の自分“がやってくることがある。


 最初にやってきたのは八歳の時。一人で部屋で遊んでいた私の前に突然現れた。

『今日の夕飯のお刺身は食べちゃダメよ』

 それだけ言うと、フッと消えた。私は言いつけ通り夕飯のお刺身に手を付けなかった。お刺身にはアニサキスがいて、食べなかった私以外の家族は腹痛で酷い目に遭った。

 それから、彼女はまた現れた。

『私は未来のあなた。危険な目に遭う前に教えてあげる』

 その言葉通り、彼女はときどき現れた。

『最近仲良くしてる子、家に呼ぶのはやめなさい』

 言うとおりにしてたら、あとでその子は他の人の家にいくとおもちゃをこっそり持ち出して自分のものにする子だとわかった。

『今日は一本早い電車で通学して。いつものやつだとかなり遅延するから』

 たしかに遅延して、いつも通り電車に乗った子はぎゅうぎゅう詰めで最悪だと言っていた。

『今好きな子いるでしょ? 告白するのは少し待って』

 先に他の子が告白して付き合っていたけど、浮気されて泣いていた。

『内定二つでて迷ってるでしょ? そっちの大手の会社はやめなさい』

 その後、大手の会社のほうはパワハラが問題となって世間を騒がせた。

 そして“未来の自分“のおかげで危機を回避しながら生きてきて、それでも回避できない危機に見舞われた。原因不明の難病だ。

 困り果てていると、また未来の自分が現れた。

『病気で困っているでしょ?』

 こくりと頷く。未来の自分は微笑んだ。

『セミナーに誘われているでしょ? そこに行きなさい。そしたら、そこにあなたを助けてくれる人がいるから』


*****


『今回のテーマは■■病をテーマに~』 

 医学を分かりやすく解説するバラエティ番組を見て、ふと思い出した。

「お母さん、親戚に同じ病気の人いなかったっけ」

「そうよ。あの人大変よ」

「だよね。難病だし」

「それも大変だけどね。宗教にハマっちゃって。

 なんとかセミナーに行ったことがきっかけで救われたって言ってるけど、教祖に心酔してお布施でお金どんどん注ぎ込んでて……治療費まで費やしてるんじゃないかって言われてるわよ……」

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