あの子の願い

 去年、クラスメイトが行方不明になった。


 みんなで山に遊びにきたときに、いつのまにか一人いなくなっていて、そのまま。警察も、ご両親も、私たちも、みんなで一生懸命探したけど、結局見つからなかった。

 その事件から一年、お盆を迎えた頃から、よく夢を見る。

 白骨になったあの子が、私を含めた、あのとき山で遊んだメンバー六人を、山の中で追いかけ回すのだ。それを毎日見る。一週間連続で見て、今のところなんとか逃げ切っているけどそろそろ追いつかれそうだ。

 追いつかれたら、どうなるんだろう。

「……恨まれてるんじゃねえの? あのとき山なんかに誘いやがってって。あいつだけ山じゃなくてプールに行きたいって行ってたけど、多数決で山になったしさ」

「そんな……」

 あのとき山で遊んだメンバーは全員私と同じ夢を見ているようだ。

「追いつかれたらどうなるんだろう……」

「……やめろよ」

 みんな、悲劇しか想像できなかった。

「……なんとかなるかもしれない」

 黙りこくる中、一人が声を上げた。

「昨日の夢の中で、大きな傷がある木があったでしょ。私、あれと同じ木がある場所知ってる。もしかしたらあの夢は、現実にある場所が元になってるかもしれない」

「つまり?」

「日が高いうちに、下見ができる。そうなると逃げるルートとかも考えられる。もしかしたら、朝のうちに武器を山に置いておいたら、それも夢の中に反映されるかもしれない」

「!」

「なるほど、それなら対策がとれる!」

 善は急げと、私たちはその場所へと足を運んだ。


「あ、たしかにこんな木あったよ!」

「あったあった! この壊れた小屋も!」

 それはあの子が消えた山の隣の山。たしかに夢の中で逃げ惑った場所だ。

「遊歩道にけっこう近いね」

「水音がするな。こっちは川か」

「じゃあそっちには逃げられ、うわああ!」

 茂みを分け入って川を見た友達が腰を抜かした。どうしたとみんなで駆けつける。

「なっ……!」

 川のそばに、白骨死体。纏っているのは、朽ちかけているものの、あのときあの子が着ていた服と同じもの。

「ど、どうしてこんなところに!?」

「たしかにあいつがいなくなった隣の山にもでかい川はあったけど、ここまで流れてきたのか!?」

「あり得るかも……普通ならここまで流れてこないだろうけど、あのとき夜に強い雨が降ってたし、一時的に水かさが増してここまで……」

 みんなで何も言えなくなったまま、変わり果てた彼女を見つめる。

「……もしかして、見つけて貰いたかったのかな」

「! そっか……お盆だもんな……こんな姿でいつまでもここにいるなんて嫌だろうし……」

「ごめんね……でもようやくまた会えたね」

 現実の場所と同じ場所での追いかけっこ。それは、白骨となりしゃべれなくなった彼女が、自分の居場所を示すための夢だったのだろう。

「大丈夫だよ。皆でいっしょに帰ろう?」

 一年越しの山遊びを終わらせるべく、私たちは彼女の手をとろうとして、

 骨が、動いた気がした。


*****


「だからそういうのじゃねえっつってんだろ……」

「なんで、こういう子が好きなんでしょ?」

 ああ腹が立つ腹が立つ。目の前にいるのは何回か俺に告白してはそのたびにフラれてる女。そいつが今、趣味じゃないゴスロリとか、十字架とか、“いかにも“な見た目で俺の前に座っている。

「不思議ちゃんが好きなんでしょ? 私今、お化けが見えるようになる練習もしてるんだよ。だから付き合おうよ。なんだってあなたの好みに合わせるから」

「ファミレスじゃなかったらぶん殴ってるぞテメェ」

「なんで? こういうのが好きなんでしょ? 今好きな子、不思議ちゃんだって聞いたよ。脈ない子より、私にしなよ」

「俺が好きなのは“不思議ちゃん“じゃなくて“三島“だっての! 三島がたまたま不思議ちゃん系なだけだ! 

 だいたい仮に好きなやついなくてもテメェのそういう主体性ゼロなところ大っ嫌いなんだよ! 失せろ!

 あと脈はあるわボケ!」

 失せろ、といいつつ不快感故に自分から席を立ってダッシュで逃げる。あいつの足が遅くて良かった。何も注文してなくて本当に良かった。

「ああ~! 腹立つ~!」

 独りごちる。

「“あなたのことは分かってるよ。本当はこうなんでしょう?“ってやつはなんでこう腹が立つかね。

 こちとらテメェが嫌いなだけだっつーの! 自分に都合がいいほうに解釈するんな! あー! ぶっ殺してえ!」

 街中だというのについつい声が大きくなる。周りの視線が痛くなってきて口を押さえた。

 頭を冷やすためにジュースを買ってベンチで飲んでいると、大きなサイレンの音。

「んん?」

 救急車とパトカーが数台、山の方へ向かっていっている。

「なんだありゃ」

 事件だろうか、と思いながら飲み干した缶をゴミ箱に捨てた。

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