集団ストーカーの■■
とても多くの人が、私を見張っている。
数年前からそれは始まった。何か視線を感じるようになって、それが特定の人物からじゃなくて、道ですれ違う様々な人が送ってくるものだと気付いた。
両親も、警察も、同僚も、友人も、みんなみんな私を病気だと決めつけてくるけど、あれは幻覚なんかではない。確かなものだ。
「理解してくれないから辛いよね。私も同じ」
「でも、仲間はここにいる」
ネットで繋がった、同じ集団ストーカー被害の仲間。ネットで、あるいはリアルで会って仲間と出会うことで、私は集団ストーカーの被害と周囲の無理解で折れそうだったところをなんとか持ち直した。
「被害に遭っているのは俺たちだけじゃなあい」
「同じ仲間たちと、助け合いましょう」
そう、卑劣な犯罪に負けるわけにはいかない。幻想だと思い込んで、病院の魔の手にかかるわけにもいかない。仲間とともに、私は戦い続けていく。
*****
私には霊感がある。町の片隅に生きる妖精さんや、神社にいる神様、そして幽霊さんともお友達だ。もっとも、みんな私のことを“痛い子“と言うけれど。
「こんにちは。半透明の人」
『こんにちは、人の子』
町にときどき出るようになった半透明の人たち。その人たちは、ただ半透明なだけで、普通に歩道を歩いていたり、スマホをいじっていたり、咳をしていたりするだけで無害だけれど、普通の幽霊さんとはなんだか違う感じがするから、そのうちの一人に気になって声をかけた。
「あなたたちは、どんな存在なの?」
『はい、私たちは“集団ストーカーの概念“です』
「……概念?」
『はい。私たちは集団となり、特定の人物をつけ回します。それだけのための存在です。目的はありません。強いていうなら、集団でつけ回すことそのものが目的です』
「なんでそんなことをするの?」
『はい。その特定の人物、私たちの母たる存在が、そう望んだからです』
「?」
『母は精神を病みました。そして“自分は多数の人間につけ回されている“という妄想に襲われました』
「集団ストーカーというやつだね」
『はい。周囲に病院を勧められましたが、母は拒否しました。自分は本当に集団にストーカーされていると、頭の病気ではなく、実在の人物につけ回されていると、そうであることを強く信じました。
そしてその母の思いはとてもとても強く、雨乞いが天に通じ雨が降るように、妬み嫉みから呪いが生まれ人を傷つけるように、母の強い思いから、私たちが生まれました』
「“自分が集団ストーカーの被害に遭っている“という妄想を現実にするためにあなたたちが生まれたの?」
『はい。母にとって、私たちは本当に存在していなければならないのです』
「……でも、あなたたちを認識できるのは、私みたいな霊感がある子か、その“母“だけじゃない?」
『はい。母の望みは強いものですが、誰にでも私たちを視認させられるレベルには達していません』
「…………」
『母が移動するようです。それでは』
「さようなら、ありがとう」
そして“集団ストーカーの概念“さんは立ち去っていった。他にも似たような半透明の人たちが移動を始めたので、きっと同じ概念さんなのだろう。
「あ」
近くに貼り紙があった。その“母“かその仲間が貼ったものなのか、集団ストーカー被害のエッセイコミック発売のチラシだった。
「……これもそうなのかな」
幻想なのか、実在の存在なのか、はたまた生み出してしまった“概念“なのか、それらに襲われたデフォルメされた女性が、困った顔をしながらチラシの中で逃げ惑っていた。
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