コミックマーケット

 姉がコミケから戻ってきた。


「なーなー。今回も“アレ“ある?」

「はいはい。落ち着きな日陰。ちゃんとあるから」

 コミックマーケット。日本最大のオタクのお祭り。俺はゲームや漫画はそこその好きだがそういうのにまで食指は動かない。だが、コミケだけは別だ。実際に現場には行かないが、姉が持ち帰る“あの本“だけは毎回楽しみにしている。

「ほら、評論同人誌」

「うはっ」

 コミケはいかにもなオタクくん向け漫画とかエロ本だけのお祭りじゃない。全国行脚して撮影した朽ちかけた自動販売機の写真集とか、ツナ缶の簡単調理方法百選とか、その年に発売されたフォントの“あ“だけを集めて著者が感想をまとめてるとか、実用的であったり、あるいは「どこに需要があるんだよこれ」と言いたくなるような同人誌もある。俺はそういうのを読むのが好きだ。姉もそういうのは好きなので、コミケ後は二人で読み合って感想を言っていたりする。

「今回はねー、あんた、これ好きそう」

「んんー?」

 それは、「特に何もない場所だけどなんとなく不気味に写るように撮影した本」という長いタイトルの同人誌。

 タイトルの通り、特に何か恐ろしいものが写っているわけでもない、ただの草むらや洞窟や山の画像だ。

 だというのに、どこか妙な不気味さがあって、意識が引き込まれる。そんな本。

(いや待て、どっかで見たことあるぞこの写真……)

「それね、一部はこの町の写真なんだって」

「え、マジ?」

「地元なんだってー」

 見覚えがあるのも当たり前である。そう言われると、「ああこの写真は〇〇で撮ったのか」と鮮やかに場所が思い浮かんでくる。

(ん?)

 撮影された場所。この町のものに関しては、それら全てに共通点があることに気付いた。

「なんも変なもの写ってないのになんか怖いよねたしかに。どうやって撮影したんだろう」

「……そうだなー」

 俺は本を閉じ、とりあえず行ってみるか、とまだ日が高い中、“それ“を確かめるために写真の場所へと赴いた。


*****


「どうして分かったの?」

 友達兼片思い相手の三島は今日もかわいい。バス停で隣に座って、バスを待ちながら暇つぶしに尋ねてくる姿もかわいい。

「何が?」

「例の事件。どうしてその……同人誌?に写ってる場所に死体が埋められてるってわかったの」

 警察が調べた結果、例の写真集に写っていた場所全てに死体が埋められていた。犯人は当然発行したやつだ。今ニュースを騒がせているホットな事件だ。

 そして、匿名で通報したのが俺だ。

「ああ、あれな。いやー、写真集見てたら場所が分かっちまってさー。

 写真の場所、“もしいつか人を殺しちまったら、ここに埋めといたらバレねーよな“って考えてた場所でさー」

「……………」

「ははっ、みんな考えることは同じだよな!」

 何故か弱パンチを脇腹に食らった。なんでさ。

「もう……」

 しょうがない人、という目線を送られてしまった。

「役に立ったからいいじゃん?」

「良いのかなぁ……」

 良いに決まってるだろー?

 そう言っているうちにバスが目の前に止まり、会話は中断となった。

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